2023 Fiscal Year Annual Research Report
『洗心洞詩文』所収詩の全注釈ならびに大塩平八郎をめぐる幕末期詩壇の研究
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21K00296
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Research Institution | Tezukayama Gakuin University |
Principal Investigator |
福島 理子 帝塚山学院大学, 人間科学部, 教授 (40309365)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 大塩平八郎 / 洗心洞詩文 / 陽明学 / 屈原 / 頼山陽 / 岡田半江 / 篠崎小竹 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、①『洗心洞詩文』所収詩と未収録の注釈を完了した。その過程で、大塩平八郎の精神において文人的な側面が相当に大きな比重を占めていること、世情への批判がことに貴顕に及ぶ場合は、きわめて隠微な形で行われていることが明らかになった。②大塩がその人生の最期に起こす激しい行動を、彼の中で正当ならしめた思想は何であったのか。従来はそれは陽明学的行動性に帰せられていたが、それを超える時代の精神があったのではないか。その一つとして、江戸中期から明治にかけての知識人における「大義名分論」の変化を想定した。また、幕府と朝廷という二元的な権威への認識が、前世代の詩人らの「王朝の盛んなりし時代への憧れ」というレベルを超えてきたことが想定され、それは大塩の中にも認められる。③さらに、同時代に上方で活動した文人について、頼山陽、篠崎小竹、岡田半江らはもとより、中島棕隠や梅辻春樵、中林竹洞、さらにその弟子の斎藤畸庵を含め、その表現方法と思想を検討した。 三年にわたる研究機関を通じて明らかになったのは、まず、大塩平八郎の詩の緻密さである。詩という文学形式の特質を活かして、自らの苦悩、思想を古人に重ねて歌う。たとえば、彼の詩の多くは大川畔の散策で得られたものだが、自らの姿を屈原に重ねようとしていたことなどは、大塩という人物を理解する上で大きな助けとなる。天保という政治的にも経済的にも危機というべき状況にあって、同時代の詩人たちの表現方法とその内容は多彩である。各々が政治的意見や時事批判を心中に有していたとして、中島棕隠や梅辻春樵らは時に直截にそれを表すが、広瀬旭荘や頼山陽らは真意を隠微に表現する。大塩もまた、後者に属する者と言える。 最後に、研究の途次、幸田露伴や石川淳ら近代文学者の作品の検討を通して、大塩事件の解釈と影響について、まったく異なる方向から照らす機会を得たことを添えておきたい。
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