2021 Fiscal Year Research-status Report
周縁にて女性が書く行為をめぐる言説構造の解明:現代沖縄文学の多層性への新たな視座
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21K00299
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Research Institution | Kochi National College of Technology |
Principal Investigator |
翁長 志保子 高知工業高等専門学校, ソーシャルデザイン工学科, 講師 (70805671)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 沖縄近現代文学 / 女性文学 / 周縁性 / フェミニズム批評 / 日本近現代文学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、1970年代後半から90年代初頭に登場した沖縄の女性作家たちの活躍に焦点を定め、女性が書く行為をめぐる言説構造について分析を行う。その目的を達成するために、本年度は以下のような取り組みを行った。 1)【基礎的資料の収集・整理】本年度は当該研究の基礎造成期にあたる。70年代後半から90年代初頭沖縄における女性作家に関する状況把握のため、沖縄県内外の女性作家に関する資料の収集と同時期における女性を取り巻く文壇の状況把握・整理に努めた。文献複写や相互貸借等の手段を用いて、沖縄県内の各図書館や研究施設にある沖縄の女性作家に関する雑誌等の資料を中心に、可能な範囲で収集・整理した。 2)【山里禎子「ソウル・トリップ」の発表・論文化】女性作家が周縁にて文学を書く際には、「女性として」書くことが高く評価されてしまう。例えば子を持つ母の場合、その創造性よりも「母性」を前提としたリアリズム表現をこそ、当時の文壇では尊ばれた。本年度は女性作家の「母性」を問われた山里禎子「ソウル・トリップ」を中心に分析を進め、当該作品の研究成果を「島嶼研究の未来へ向けて:架橋する国際若手研究2022」(2022年1月23日(日))にて発表した。また、その成果をまとめ『日本近代文学』第107集へ投稿し、査読結果待ちの状況である。 3)【崎山多美作品に関する研究成果の発表】高知文学学校における文学講座(第67期課程:2021年6月23日(水))にて、崎山多美の言語表現や作品の持つ魅力について「崎山多美ーー沖縄で女性が書くことをめぐって」と題した講演を行った。沖縄文学における女性作家の作品の特徴や作品の意義に着目した講義を行い、沖縄文学研究の重要性を広く周知することに寄与した。また、当該団体の出版する作品集に、論考「求めを手放さないこと―ー崎山多美の文学におけるコトバ―ー」を寄せた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は当該研究の初年度にあたり、基礎資料の調査・収集を精力的に行う予定であったが、コロナ禍により移動が制限され、当初予定していたよりも資料収集の点において困難があった。しかし、ILLやデジタル・アーカイブ等を活用し、可能な範囲での資料の調査・収集に努め、範囲を絞った形で女性が書くことをめぐる状況に関する分析を行い、論文の投稿や講演などの成果を挙げることができた。 また、70年代後半から90年代初頭の資料の調査・収集についても、入手可能な資料をもとに女性作家が置かれていた状況の総括に努め、次年度以降の基礎となる考察をすすめた。以上の点を踏まえ、「おおむね順調に進展している」という自己点検・評価とする。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度に引き続き、基礎資料の調査・収集を行いつつ、当該研究における次の研究課題に着手する。沖縄文学史の女性作家の位置づけの問い直しのさらなる端緒として、田場美津子「仮眠室」における堕胎と戦争の記憶の描き方の分析を行い、沖縄女性の妊娠・堕胎をめぐる言説について批判的に考察を深める。加えて、女性作家の作品に登場する「海」という表象に着目し、崎山多美の作品を中心に考察・分析を行っていく予定である。これらの研究課題について、発表・論文化に積極的に取り組むことを目標とする。また、さらに次年度を見据え、沖縄県外の作家でありながら沖縄に関わる著作のある干刈あがたや石牟礼道子の作品についても調査を進めていく。
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Causes of Carryover |
本年度はコロナ禍により移動が制限されたため、旅費を使用して調査を行うことが困難であった。そのため、調査先で資料収集のために使用することを前提としてたPC等のデジタル機材の購入についても、効果的な使用を見込むことができない状況に鑑み、購入を見送った。ゆえに、本年度の使用額が、当初予定額よりも大幅に少ない状況にある。 次年度以降については、コロナ禍の状況の様子を見つつ、国立国会図書館や沖縄県内での資料調査等を適正な形で行えるよう、計画を立てる予定である。
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