2022 Fiscal Year Research-status Report
横光利一の直筆原稿とメディア検閲に関する国際的研究
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21K00313
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
十重田 裕一 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (40237053)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 横光利一 / 直筆原稿 / 校正刷 / メディア / 検閲 / 占領期 / プランゲ文庫 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、横光利一(1898~1947年)の直筆原稿から雑誌・新聞等の初出、さらには単行本本文に至る生成過程を総合的に解明すると同時に、内務省とGHQ/SCAPの検閲と葛藤しながら創作した作家の格闘の軌跡を重視しつつ考察することを目的としている。本年度の研究実績は、『横光利一と近代メディア 震災から占領まで』(岩波書店、2021年9月、pp.1-416)の成果をさらに展開した、「横光利一の時代とメディア 二つの言論統制との葛藤」(『図書』第888号、岩波書店、2022年12月、pp.32-36)と『川端康成 孤独を駆ける』(岩波書店、2023年3月、pp.1-286)がある。「横光利一の時代とメディア 二つの言論統制との葛藤」は、内務省とGHQ/SCAPの検閲と葛藤しながら創作した作家の格闘の軌跡を考察した論文である。『川端康成 孤独を駆ける』は、本研究の方法を、横光利一と同時代に活躍した川端康成(1899~1972年)に応用した著作である。本書では横光利一についての論述も多く、『横光利一と近代メディア 震災から占領まで』と相補的な関係にある。両者が新感覚派として同じ時代に、共通した問題意識を持って創作活動を展開した作家であることから、『横光利一と近代メディア 震災から占領まで』と『川端康成 孤独を駆ける』の研究方法の相乗効果が確認でき、横光利一と川端康成の特色の差異と一致が明確となった。以上の研究成果の他に、メリーランド大学図書館ゴードン・W・プランゲ文庫所蔵の横光利一『旅愁』と検閲済み校正刷との関連を考察した論文が、2023年度中に学術雑誌に掲載される予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
『横光利一と近代メディア 震災から占領まで』(岩波書店、2021年9月、pp.1-416)を2021年9月に上梓し、当初計画していた研究を前倒しで公にすることができた。さらに、「横光利一における本文研究の可能性――直筆原稿・メディア・検閲」(『横光利一研究』第20号、2022年3月、pp.103-108)を発表し、当初計画していた研究は順調に進展した。今年度は、『横光利一と近代メディア 震災から占領まで』の成果の意義を検証すると同時に、その発展を期すべく研究を進めた。研究成果には、「横光利一の時代とメディア 二つの言論統制との葛藤」(『図書』第888号、岩波書店、2022年12月、pp.32-36)と『川端康成 孤独を駆ける』(岩波書店、2023年3月、pp.1-286)がある。前者は、メディアの変革期であった1920年代から1940年代に、「文学の神様」と称された横光利一がメディア検閲といかに斬り結んだのか、また、そこで生じたせめぎあいが、いかにして作品本文に影響を与えたかを論じた。後者では、川端康成に関する著書の中で、親友の横光利一についても多くの紙幅を割いて考察した。『横光利一と近代メディア 震災から占領まで』と『川端康成 孤独を駆ける』とは深い結びつきを持ち、いずれも20世紀の日本文学とメディアとの関連を明らかにしようと研究成果である。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究では、直筆原稿・校正刷とメディア検閲に関する側面の調査・分析をさらに進展させていく。今年度は、メリーランド大学図書館ゴードン・W・プランゲ文庫所蔵の横光利一『旅愁』と検閲済み校正刷との関連を考察し、学術論文として発表する計画を立てている。その論文は、2023年度中に学術雑誌に掲載される予定である。計画中の論文では、占領期日本の文学者と編集者をめぐるメディア検閲について、検閲済み校正刷や編集者の日記などを活用しながら検討することを目的とする。占領期メディア検閲と文学に関する研究では、執筆者である文学者はもとより、最初の読者となる編集者の果たした役割が大きい。したがって、編集者の関与を解明することが、日本文学におけるメディア検閲の研究では重要となるだろう。横光利一の直筆原稿に加えて、検閲済み校正刷も分析対象に加え、編集者の関与を視点として導入することで、新たな研究方法を提示したい。
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Causes of Carryover |
前年度に引き続き、コロナウイルス感染拡大のために出張が大幅に制限された。そのため、計画していた国内外での研究教育機関における調査ならびに研究成果の発表が実施できず、研究費の使用額に変更が生じた。その一方、当初の予定を変更して、これまでの研究成果を学術論文、学術書にまとめて公にすることに注力した。前年度は、パンデミックの状況下で、柔軟に対応しながら着実に研究成果をあげることができたが、今年度は、継続して研究成果をあげると同時に、海外で研究成果の発信を行うことを計画している。
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Research Products
(2 results)