2021 Fiscal Year Research-status Report
明治・大正期文学における進化論・退化論パラダイム表象に関する総合的研究
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21K00314
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
石原 千秋 早稲田大学, 教育・総合科学学術院, 教授 (00159758)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 進化論 / 退化論 / 明治・大正文学 / 夏目漱石 / 近代批判 / 資本主義 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の中心は夏目漱石の文学を中心とした進化論的・退化論的研究だが、山崎正和の「淋しい人間」(『ユリイカ』1977年11月)に、漱石文学の主人公について「自分を行動の禁治産者にしている」、「じつに豪華な人間能力の浪費」と述べている。この言葉の使い方は明らかに資本主義を意識している。資本主義は進化論パラダイムの申し子でもあるので、資本主義に注目した。資本主義的行動とは、自分のいまいる「ここ」から「そこ」に行くことである。これは欲望を生み出す根源的な仕組みでもあるが、漱石文学的主人公は「ここ」から動こうとしない人間ばかりである。 たとえば、『彼岸過迄』の漱石文学的主人公である須永市蔵は、美人写真(当時の美人写真帳は公開お見合いでもあった)を見て、その人に結構を申し込めるとしてももそのことに思い及ばないし、幼なじみの田口千代子の前に高木という青年が現れると「嫉妬」を自覚しながら、当の千代子には「自分と結婚しようとも思わないのに、なぜ嫉妬をするのか」となじられる。つまり、須永の「嫉妬」は「そこ」へ行こうとしない「嫉妬」なのである。言い換えれば、欲望のない「嫉妬」なのである。「行動の禁治産者」とはこういう意味であり、須永は反資本主義的な人物なのである。 「そこ」とは「未来」のことでもある。進化論パラダイムは未来への志向なしには成り立たない。本研究では進化論パラダイムを資本主義の観点から考察した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
やや遅れていいる最大の理由は、進化論的・退化論的研究を進めているうちに、資本主義の問題は避けて通れないと判断し、研究の中心ではないかもしれないが、「急がば回れ」の言葉通り、資本主義の勉強を始めたからである。資本主義こそ進化論的パラダイムの申し子である以上、避けられない迂回であった。 その結果、少なくとも漱石文学の男性主人公たちは半資本主義的=退化論的存在であることが明らかになった。資本主義を視野に入れることでこのテーマがより広がりを持つこともわかった。したがって、この迂回を「遅れている」と判断するか、「広がってきた」と判断するか、最終的な結果次第である。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年の一夏をかけて、資本主義の勉強は一通り終えることが出来た。また、その勉強を生かて漱石文学を読み直した成果を活字にすることも出来た。すなわち、明治・大正期の他の文学作品をこのテーマにつなげる枠組みが広がったので、今後の研究の進展が望める。資本主義への迂回は今後の推進力となっていいる。
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Research Products
(2 results)