2021 Fiscal Year Research-status Report
室町期成立の集成抄物の資料的性格についての研究―継承・受容の様相―
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21K00548
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Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
山本 佐和子 同志社大学, 文学部, 准教授 (00738403)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 抄物 / 集成抄物 / 古文真宝 / 笑雲清三 / 文英清韓 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、中世室町期の抄物のうち、先行する複数の抄物を類聚・編纂した「集成抄物」について、書誌学的・文献学的調査と言語事象の観察を行う。これらの成立経緯や継承・受容の様相を明らかにし、言語資料としての性格を再考して利用を促進することを目的としている。この種の抄物は、抄物の成立時期半ばの1530年代以降、五山僧の抄物について作成されるようになり、織豊期には、公家や有力大名にも注釈書として広く受容されたため、伝来の確かな写本や良質の古活字版が現存する点も、言語資料として貴重である。本研究では、集成抄物のうち、笑雲清三〔生卒年未詳,抄物作成期は永正・大永頃(1500-1530)〕が編纂し、それを継承した文英清韓〔1568~1621頃〕と周辺が古活字版で版行したと推定できる「笑雲和尚古文真宝之抄」「四河入海」及び、二抄と関連する抄物について調査・考察を進めている。 今年度は、新型コロナの制約下にも関わらず、多くの資料所蔵先が閲覧受入れを再開されたため、仁和寺、静嘉堂文庫、東洋文庫、大東急記念文庫、国立国会図書館、国立公文書館内閣文庫、宮内庁書陵部で、抄物の現地調査を行った。 特に、仁和寺と静嘉堂文庫にそれぞれ写本が所蔵される「彭叔守仙抄古文真宝抄」について、静嘉堂文庫、東洋文庫に所蔵される五山版・古活字版「古文真宝後集」への書入れ注記と同系統の書入れ抄物を漢字仮名交じり文にした著作であることを見出したのは大きな成果である。同時に行った「古文真宝後集」の古鈔本及び古活字版・初期整版の書誌学的調査によって、これら版本と「彭叔守仙抄」及び「笑雲和尚古文真宝之抄」の版行に清韓が関わっていることが推定できた。 「四河入海」に関しては、元刊本『増刊校正王状元集註分類東坡先生詩』について、大阪府立中ノ島図書館蔵本と国会図書館蔵本の書入れ注記の翻刻を行った。以上の成果の一部は、22年度末刊行の拙著に収める。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は当初、「笑雲和尚古文真宝之抄」の諸本の調査を開始する予定であったが、笑雲清三の学統に連なる文英清韓抄と目されていた「古文真宝抄」が、同じく東福寺の禅僧、彭叔守仙の抄物であることが判明したため、彭叔守仙抄の伝本調査を進めた。同時に、「古文真宝後集」の古鈔本、五山版、古活字版、初期整版の書誌学的・文献学的調査も行い、(1)五山版・古活字版への書入れ抄物に彭叔守仙抄が基づいた吉甫□興書入れ抄と同系統のものが複数あること、(2)従来から文英清韓が版行に携わったことが知られていた古活字版・初期整版「古文真宝後集」と「笑雲和尚古文真宝之抄」には字形や字配りがごく似通う版本が存すること、(3) 文英清韓が「彭叔守仙抄」「笑雲和尚古文真宝之抄」双方の継承(書写)と版行に関わっていること、を見出した。 今後、(2)(3)を手掛かりに、大名家旧蔵の諸本が残る「笑雲和尚古文真宝之抄」のうち、笑雲に最も近い写本の特定と、版行の経緯の解明を進める。 また、本研究では、言語資料として織豊期の抄物を新たに整備することも目指している。東洋文庫蔵『古文真宝後集』書入れ抄物のうち、米沢文庫旧蔵の1点は、成立が確実に慶長期まで下り、「笑雲抄」には所収されない口語的な文体の先行抄を複数含むことを見出した。先行抄のうち二抄の抄者は、米沢文庫蔵朝鮮版『東坡先生詩』書入れ抄物とも共通する。この2名を含めて先行抄の作者で特定できていない人物もあるが、笑雲抄に続く時期の抄物を集成している可能性が高い。今後、翻刻を行って、言語面の特徴も明らかにする。
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Strategy for Future Research Activity |
22年度は、21年度に引き続き、抄物の書誌学的・文献学的調査と非公開の抄物の翻刻を中心に行う予定である。文献資料の調査・報告は、所蔵先の保存・管理を微力ながらサポートすることとなり、コロナ禍でも継続は必須である。制約はあるが、可能な限り現地調査を行い、デジタル画像が所蔵先に残るよう複写依頼も行う。同時に、研究代表者の博士論文以降の抄物の言語と資料に関する論考を集めた著書の刊行準備を進める。 まず、昨年度に引き続き、「古文真宝後集」の抄物について、調査と考察を進める。具体的には、21年度に行った「彭叔守仙抄」に関わって、吉甫□興書入れ抄と同系統の抄物の翻刻と文献学的考察を行い、抄物が先行抄を利用して作成される過程を考察する。また、「笑雲和尚古文真宝之抄」に関して、複数残る写本のうち、名古屋市蓬左文庫本の文献学的・書誌学的調査と、当該写本のみに残る「韓曰」の翻刻を行う。蓬左文庫本は、駿河御譲本という伝来や、現東北大学附属図書館蔵・旧蓬左文庫蔵本「古文真宝桂林抄」との書型の近似、笑雲清三の学統に属する文英清韓の書入れ(筆跡及び「韓曰」の出典表示)に鑑みて、当該資料のうち、最も編者笑雲清三に近い本である可能性が高い。 このほか、21年度は、上記「彭叔守仙古文真宝抄」の伝本調査のため、真言宗御室派総本山仁和寺(京都市右京区)へ典籍調査に伺い、彭叔抄写本と併せて、同時期の近世初期17世紀中の和刻本漢籍および、明版、抄物の後続で後の漢籍国字解へと繋がる注釈書類の調査を行った。これらの仁和寺蔵書は、院家(塔頭)から本寺に集約されているが元の所蔵先を大きく離れていない点で大変貴重である。抄物がいつ・どこで、どのような人々に注釈書として受け容れられていたかを解明することは、抄物が反映する言語の性格の解明に繋がる。22年度も同寺の調査を継続する予定である。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じたのは、研究機関への設置を予定していた、抄物の原典である漢籍の近世初期版本について、流通量が非常に少なくなっており、購入を見送ったためである。日本語史・中世文化史の史料の影印についても、21年度は目ぼしいものがなく、購入を見送ることとなった。 また、現地調査で使用する撮影機材について、予定していたカメラを前研究課題内で購入できたため、今年度は新しい機器が不要であった。 次年度は、古典籍目録等に目配りをし、可能な限り古書店や古本市にも出向いて、訓点等の記入された近世版本の収集に努める。 現地調査で使用する機器や、画像データを印刷する際のプリンタ・トナーも今年度は追加購入する予定である。
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Research Products
(3 results)