2021 Fiscal Year Research-status Report
宣教師によるキリシタン・ローマ字文献の表記法の実態解明
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21K00612
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Research Institution | Chubu University |
Principal Investigator |
千葉 軒士 中部大学, 現代教育学部, 准教授 (00736580)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | ローマ字表記 / キリシタン / 版本 / 写本 |
Outline of Annual Research Achievements |
16世紀後半から17世紀初頭にかけて来日した宣教師たちの作り上げたキリシタン・ローマ字文献について、ポルトガル語で記されたイエズス会資料とスペイン語で記されたドミニコ会資料双方の写本と版本における日本語ローマ字表記法の観察を行った。新型コロナウイルスの影響により、当初予定していた現地での資料調査は中止したが、今までの研究で作成したデータと、入手可能な複製本を利用し研究を行った。 (1)イエズス会ローマ字写本資料のバチカン図書館所蔵「バレト写本」における日本語長音表記を分析した。「バレト写本」の長音に対応するアセント符号を見る限り、この本では書写の段階に本文書写段階・注釈段階があり、長音に対応するアセント符号は本文書写段階では ´ を、注釈段階では ^ と ∨ が用いられている。´ は単なるo、uでないマークとして利用されていたが、長音を示すにあたり ^ と ∨ という長音専用符号を用いることで、´ から長音の表示という機能を切り離していった。 (2)現代語の発音に基づき、イエズス会のキリシタン版(印刷された辞書・宗教書・文学書)のローマ字表記をまとめた。それに向け、ロドリゲス『日本大文典』『日本小文典』および「バレト写本」のような写本類での異なる表記、ドミニコ会資料における表記についても精査した。 (3)キリシタン文献・ローマ字本におけるウ段長音表記の変遷の要因として印刷の影響について検討した。ウ段長音表記対応箇所に複数のアセント符号が併用されたのは、版面担当者の判断で行われた可能性が高い。版面担当者がこの対応をとったのは、そもそもウ段長音にオ段長音のような音韻的対立が見られないためで、本語におけるアセント符号の利用と同様にuの上に何らかのマークを付すことで視覚的に単なるuとは異なることを明示することにつながったためである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2022年2~3月、新型コロナウイルス感染症の影響で、本来計画していた現地調査(スペイン国立図書館(マドリード)など)による資料調査を行うことができなかった。しかし、今年度の成果として学術論文の公表、および研究発表を行った。この研究発表については、まだ論文化できていないため、2022年度中に論文として公表する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
新型コロナウイルス感染症がこの先予定している海外資料調査にどう影響を与えるか全く予測できないため、現地資料調査が再開できるかは不明である。そこで、現地調査に代わる資料の収集方法(現地図書館へ電子化データの請求など)を模索している。ただ、資料によっては、電子化データを公開していない図書館・公文書館もあるため、この先も困難が予想される。ただ、新型コロナウイルス感染症の影響、また渡航状況なども慎重に見極めながら、扱えるデータ、資料を選別し、扱えるものから柔軟に研究を進めていく。
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Causes of Carryover |
現地調査(スペイン国立図書館(マドリード)など)を予定していたが新型コロナウイルスの影響で、実現できなかった。翌年度、新型コロナウイルスの事態が収束した後で現地調査を行うための旅費として使用する予定である。
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