2022 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
21K00828
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Research Institution | Ibaraki University |
Principal Investigator |
高橋 修 茨城大学, 人文社会科学部, 教授 (40334007)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
高木 徳郎 早稲田大学, 教育・総合科学学術院, 教授 (00318734)
菱沼 一憲 國學院大學栃木短期大学, その他部局等, 教授 (40399267)
田中 大喜 国立歴史民俗博物館, 大学共同利用機関等の部局等, 准教授 (70740637)
清水 亮 埼玉大学, 教育学部, 准教授 (90451731)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 茂木保 / 坂井郷 / 現況調査 / 武家領主 / 堀の内 / 水利大系 / 石造物 / 城郭遺跡 |
Outline of Annual Research Achievements |
2022年度、ほぼ一年をかけて、茂木保坂井郷の現況調査(水利・地名・石造物調査)を実施した。結果として、坂井地区全域にわたり、比較的小規模な谷水や沢水による灌漑の重要性が確認された。かつて永原慶二が提起した小村散居型村落の典型を見出すことも可能である。谷奥に多く見認められる古代以来の遺跡を念頭に置くと、開発は谷ごとに谷奥から順次進められ、中世になって坂井川沿いにまで及ぶという様相が推定できる。 沢水・谷水灌漑の重要性は全域で変わりないが、一方で坂井川・菅又川合流地点あたりからは、用水堰からの取水による川水灌漑が展開する。当然のことながら、近世、近代以降の灌漑諸施設の充実やその恩恵による耕地の広がりを考慮に入れなければならないが、川水灌漑の起点となった空間が、坂井御城を中核とする坂井氏により形成された「領主エリア」に包摂されていることを踏まえれば、これより下流における坂井川沿いの耕地は、領主的開発に起源が求められる可能性が高い。 坂井郷の領主・坂井氏は、坂井川沿いを南北に走る烏山街道を扼し流通を管理する主体でもあっただろう。坂井川に沿った交通路は、室町期には茂木氏が鎌倉公方の軍勢との攻防を繰り広げた舞台でもある。「領主エリア」では、坂井川沿いの道が、ここだけ峠道となり坂井御城の縄張りの内側を走ることが確認できた。この地域の軍事的な重要性を物語っている。 以上のように、茂木保坂井郷の領域を、中世文書と対照しつつ復元的に把握することで、東国武家領主の家人クラスの本領・本拠について、現地景観に即して明らかにすることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2022年度は茂木町教育委員会の全面的な協力のもとに、茂木保のうち坂井郷の現況調査を実施した。コロナ禍の影響で、地元住民からの聞き取りはできなかったが、小字地名を確認しつつ目視による水利調査や中世石造物の分布調査を完了することができた。城郭遺跡の縄張り調査は、茨城城郭研究会の協力により実施し、坂井御城の縄張り図を作成することができた。 近世の坂井村は、茂木領の中でも村高が高く、上田・上々田の割合も大きい。中世、茂木氏の本拠からも近く、その本領である西茂木保を構成する五ヶ郷の一つであり、その中でも特に有力な郷であったことが推測される。茂木家の家人となる坂井氏は坂井郷を所領とし、ここに本拠を形成していた在地領主(村落領主)であろう。坂井郷を北西から南東に坂井川が流下するが、これと並んで烏山街道が茂木宿(茂木町市街地)まで通じている。康正2年(1456)の茂木城の激戦では、この路線の確保が攻防の焦点となっており、坂井郷、特に坂井御城の戦略上の重要性を示している。 茂木保の中でも、茂木氏の本拠にほど近く、軍事的重要性の高い地域を対象に荘園調査の手法で現況を記録することができた意義は高く、「西茂木保坂井郷現況地図」を編集・発行する準備ができた。あと2年の研究期間を残しており、次年度以降の調査を視野に入れつつ、十分な成果を上げることができたものと思料する。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度に引き続き、茂木保を構成する別の集落(小井戸郷・馬門郷の故地)について、水利関係や地名(小字以下の俗称地名を含む)、中世石造物等について、現地での調査を実施する予定である。現在、茂木町教育委員会と調査実施計画について調整中である。 地形図とともに、2021年度にすでに撮影している旧公図(大字集成図)をベースマップとして用い、今年度は聞き取り調査等の手法を交えて(感染症の感染状況や住民感情に配慮が必要)、水利体系を復元し耕地・宅地ごとの伝承や俗称地名を収集し、石造物や寺社(小規模な堂や小祠も含む)の所在等を悉皆的に把握することに努める。 当該地域についてはもちろんのこと、並行して茂木保全域における城郭遺跡の分布・縄張り調査も、引き続き推進したい。城郭遺跡については、茨城城郭研究会や地元研究者から、茂木保内の未調査遺構に関する情報が次々に寄せられており、これらについても順次実地調査や縄張り図の作成を進めたいと考えている。 また昨年度、第2回研究会で実施した、高橋編『戦う茂木一族』の成果の一部を『常総中世史研究』12号に掲載することができた。また令和4年度加速器科学総合育成事業「和紙を科学する」(研究代表者:高島晶彦)と共同で開催した公開研究会「茂木文書と科学の出会い」も、他分野との融合を図る有意義な機会であり、今年度も定期的に研究会を開催する予定である。他地域で実施されている荘園現地調査との情報交換なども、積極的に進めたいと考えている。
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Causes of Carryover |
いまだにコロナ禍の影響が大きく、現地調査の対象地区が限定され、聞き取りなど実施できなかった調査もあった。また研究会もオンライン開催となった。これらの事情により、未使用額が生じている。 次年度の調査においては、当該年度調査区においても補足的に調査を実施し、研究会も可能な限り対面開催したいと考えている。未使用額は、その実施経費として使用したい。
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Research Products
(4 results)