2021 Fiscal Year Research-status Report
備北における石灰岩製石造物の研究ー石工・領主・信仰・流通ー
Project/Area Number |
21K00856
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Research Institution | Nippon Sport Science University |
Principal Investigator |
舘鼻 誠 日本体育大学, スポーツ文化学部, 研究員 (00384678)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 石造物 / 宝篋印塔 / 五輪塔 / 石灰岩 / 地蔵 / 備北 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、研究蓄積が僅少な備北地域―岡山県北西部から広島県北東部(備中国北部・備後国北部)を中心に製作、造立された結晶質石灰岩製石造物(宝篋印塔・五輪塔・笠塔婆・石幢・石仏)を多角的に調査・分析することで、その分布状況や法量・技法などの基礎データを集積し、各部比率や彫成方法の比較検討を通して型式編年を確立することを目的とする。また、当該地域の石造物は、鎌倉末期から室町前期にかけては硬質な花崗岩を加工する技術をもつ畿内系石工集団に依存して製作されたが、やがて軟質な石灰岩を加工する石工集団が形成され、彼らによって地域色を押し出しながら展開していったと推察される。この動きを実証的に検証、解明することも大切な課題となる。そこには石工集団を支援する寺院や武家領主といった外護者の存在が想定され、石造物の拡大はこうした宗教勢力や武家勢力の拡大を投影したものと考えられる。このため、石工集団と外護者との関係解明や高梁川をなどの河川を介した石造物の流通の解明、さらには石造物に陽刻される地蔵の彫成方法の相違に着目し、その地域的な特質や広がりについても明らかにしていきたい。そのうえで周辺の花崗岩製石造物文化圏との比較検討などもおこないながら、石造物を通して境界をまたぐ山間地域「備北」の中世後期から近世初頭の社会の解明をめざす。あわせて地域性をもつ石造物を地域史のなかでどう活用していくか、その方法論も提示したい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究は、現地調査を実施して石造物の諸データを集積する作業を基礎に成立している。ところが昨年度も新型コロナウィルスの感染拡大によって調査対象地域となる岡山県・広島県に緊急事態宣言、ついで蔓延防止等重点措置が発令され、東京などの感染拡大地域からの移動自粛も求められたことから、当初計画していた現地調査をほとんど実施できなかった。このため研究は遅延しているが、それでも数少ない現地調査を通して「備北」(岡山県北西部・広島県北東部)を中心に分布すると考えられていた石灰岩製石造物が北側は鳥取県日南町まで、南側は岡山県井原市を中心に倉敷市・浅口市など瀬戸内海沿岸部および広島県福山市神辺などの「備南」まで、西側は広島県安芸高田市までかなり広範囲に広がっていることをつきとめ、「備北」以外にも数多く存在することを確認した。また、石材産地としては、①高梁川流域の広島県庄原市東城、②同流域の岡山県高梁市備中町、③岡山県井原市芳井町、④岡山県新見市南東部が想定され、いずれも「備北」とその近隣になるが、このうち①②の石材は成羽川~高梁川~小田川を介してかなり広範囲に流通していた形跡がうかがえる。また塔身や水輪に陽刻された地蔵には彫成方法に地域的な相違が見られ、なかでも室町期と推察される岡山県井原市西江原町の宝篋印塔の地蔵を初期形態として、これに続く広島県庄原市西城の宝篋印塔の地蔵と岡山県高梁市川上町の宝篋印塔の地蔵が同型であることから、①もしくは②の石材、あるいは同系列の石工集団の製作によって南北に広がっていったことが推察される。このように地蔵の形態は石造物の広がりを類推する重要な手かがりになるため、これから重点的に調査を進めていく。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度も新型コロナウィルスの感染は高止まりの状況にあるが、蔓延防止等重点措置などは解除されているので、調査地域の感染状況に注意しながら現地調査を進め、遅れを取り戻したい。とくに今年度は時代や地域の特質が少しずつ見えてきた石造物に陽刻される地蔵のデータ収拾に務め、形態をより細かく観察することで、地域ごとの特質や編年作業を進める。これと併行してこれまで十分な調査がおこなわれてこなかった岡山県南部から広島県福山市にかけての「備南」の調査を重点的に進め、あわせて諸地域からの石材(花崗岩・石灰岩・凝灰質砂岩)搬入が見られる鳥取県日南町の調査も進める予定である。
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Causes of Carryover |
本研究は、現地調査を実施して石造物の諸データを集積する作業を基礎に成立している。ところが新型コロナウィルスの感染拡大によって調査対象地域となる岡山県・広島県に緊急事態宣言、ついで蔓延防止等重点措置が発令され、東京などの感染拡大地域からの移動自粛も求められたことから、当初計画していた現地調査をほとんど実施できなかった。このため当該年度に使用予定であった助成金の残額を次年度に繰越し、調査費用として使用する。
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