2021 Fiscal Year Research-status Report
中世社会における製鉄・鍛冶職能集団の活動実態の解明と中世製鉄技術に関する研究
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21K00882
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Research Institution | Hijiyama University |
Principal Investigator |
安間 拓巳 比治山大学, 現代文化学部, 教授 (40263644)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 中世製鉄遺跡 / 小見谷製鉄遺跡群 / 製鉄炉地下構造 / 安芸吉川氏 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は中世製鉄技術の解明や製鉄職能集団の動向を知る手がかりを得るために、広島県山県郡北広島町上石に所在するカミショウブ第1号製鉄遺跡の発掘調査を中心に研究活動を実施した。カミショウブ第1号製鉄遺跡が所在する小見谷製鉄遺跡群は、中世後期にこの地域を領有した吉川氏に関連する遺跡(国史跡吉川元春館跡)に近接しており、領主層と製鉄・鍛冶職能集団との関連が想定されている。 発掘調査では遺跡内の予想された位置から、遺構の上面までではあるが、製鉄炉地下構造を検出することができた。調査開始前は遺跡の現地形の状況から、広島県北西部を中心に一般的に見られるものとは異なるタイプの製鉄炉地下構造が検出される可能性も考えられたが、実際には本地域によく見られる土壁とその外側に小舟状遺構をもつタイプの製鉄炉地下構造が確認された。この点は、遺跡の構造と製鉄炉地下構造の型式との相関を考えるうえで重要な調査例になると考えられる。検出された製鉄炉地下構造は、一部未調査の部分があるが、長さ約3~3.5m・土壁を含んだ幅は約1~1.5m・土壁の内法は約0.3~0.6mで、中央付近から端部に向かって幅が狭くなる形状である。土壁の厚さは約0.4mである。これらの状況は、本地域を中心にれまでに調査された製鉄炉地下構造に比べて長さが短く、幅が狭いという特徴が見て取れる。また、土壁は幅が広く、頑丈な印象を受うける。このような、他の遺跡とは少し異なる特徴をもつ製鉄炉地下構造が見られる理由や歴史的背景を考えることにより、遺跡群の形成や、広島県北西部における製鉄技術やその展開、および製鉄職能集団の動向を考えるうえで重要な手がかりが得られるものと考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
中世製鉄遺跡の発掘調査に着手することができ、予想通りに製鉄炉地下構造を検出できたことは評価できる。しかし、調査実施期間の天候が不順であったため、計画の6割程度しか調査日数が確保できず、遺構の上面までを検出したところで調査終了となってしまった。さらに、立ち木や排土置場の確保などの関係で、発掘面積を予定より縮小せざるを得ず、最低限の遺構検出・確認にとどまった。 また、勤務先での新型コロナ感染症への対応などに多くの時間を費やすこととなり、研究活動に避ける時間が想定よりかなり減少した。そのため、文献史学による中世の職能集団に関する研究や、中世の中国地方における領主層の動向や支配領域の変遷などに関する研究についての文献収集や基礎知識の習得が計画通り進んでいない。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度着手したカミショウブ第1号製鉄遺跡の発掘調査を継続し、遺跡や遺構全体の把握に努める。同時に、出土した木炭などを利用して遺跡の年代測定を行い、遺跡の操業年代を確定する。遺跡内の立ち木については、山林を管理する国立研究開発法人森林研究整備機構森林整備センター中国四国整備局広島水源林整備事務所機構と相談した結果、必要最低限のものを残し伐採できるよう許可を得ることができた。排土についても、機械を導入するなどして調査範囲外への搬出を計画している。こうした措置により調査面積を拡大し、遺跡や遺構の構造をより明確に検出できるようにする。 発掘調査と同時に、文献史学による中世の職能集団に関する研究や、中世の中国地方における領主層の動向や支配領域の変遷などに関する研究についての文献収集や基礎知識の習得に努める。手元にある書籍や論文からはじめ、インターネットの検索機能も活用しながら文献を収集し、知識の習得や研究内容の理解に努める。
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Causes of Carryover |
本年度は遺跡の発掘調査の現地作業員として、遺跡所在地の地元の方々とともに申請者が勤務する大学の学生に参加してもらうことを計画しており、そのための謝金を計上していた。しかし、発掘調査実施期間に新型コロナ感染症の流行が拡大したため、大学当局の指示により、学生を課外活動に相当する発掘調査へ参加させることができなかった。また、出土木炭による年代測定や、製鉄技術解明のための出土鉄滓の分析を専門機関へ依頼することを計画していたが、十分な資料が得られなかったため、分析依頼を行わなかった。さらに、新型コロナ感染症の流行のために関連の学会が未開催であったり、オンライン開催であったりしたために、発掘調査に係る旅費以外の研究旅費の支出が少なくなった。 次年度は発掘調査の現地作業員として学生にも参加してもらうとともに、年代測定や鉄滓等の分析を専門機関へ依頼する予定にしており、そのための謝金として助成金を活用する。また、学会活動も正常に戻りつつあるため、資料の収集や研究者との情報交換のために積極的に参加する予定であり、そのための研究旅費として活用する。
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