2021 Fiscal Year Research-status Report
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21K00960
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Research Institution | Meiji University |
Principal Investigator |
堤 隆 明治大学, 研究・知財戦略機構(駿河台), 研究推進員 (70593953)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 浅間火山南麓 / 火山災害 / 火山灰 / 火砕流 / 原始・古代集落遺跡 / 石器群 |
Outline of Annual Research Achievements |
「浅間山南麓の火山災害考古学序論」とした本研究は、浅間山の噴火が、その南麓(長野県側)に展開した原始・古代の地域社会と人々に与えた影響について考究することを目的とする。火山災害考古学は、浅間山北麓の群馬県側では災害遺跡の発見とあいまって大きく進展している状況にあるが、南麓の長野県側では災害遺跡の発見は皆無で、ほぼ手付かずのテーマであり、序論とした。 まず、本年度は、長野県北佐久郡御代田町塩野の広畑遺跡の平安時代住居2軒から出土した炭化物の年代測定6点を実施した。この遺跡は、研究代表者が2018年に発掘調査を実施した遺跡で、浅間火山天仁元年(1108)噴火の追分火砕流の分布境界にあたり、ぎりぎりでその被覆を免れた遺跡である。測定値には、9世紀末から10世紀にかけての年代が含まれ、土器型式による推定年代である10世紀初頭とほぼズレがないことがわかった。この年代をもとに、噴火前の集落生活がどのようであったかを今後の究明の課題としたい。 また、追分火砕流被覆地帯の御代田町東部~軽井沢町西部の露頭のいくつかを踏査し、追分火砕流に被覆されている集落や道路、生産遺構が残されていないかどうかを確認した。研究代表者の当該地の野外調査は30年以上に及ぶが、これまで災害遺跡の確認は皆無であり、今回も確認できず、発見の困難さを痛感した。一方、佐久市香坂山遺跡で実施された後期旧石器の発掘調査に協力し、ローム層中における浅間火山の火山灰層序を確認した。YP、BPグループなどの層序が、いずれも広域火山灰であるATの上層に確認でき、石器群と火山灰の関係性を追求する手がかりとなった。 研究初年度である令和3年度は、スタートとして上記の研究に着手した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
「浅間山南麓の火山災害考古学序論」とした本研究の進捗状況については、次の通りである。さきの研究実績でも記したように、平安時代の住居出土炭化物の年代測定を行い、土器型式とともに1108年の浅間火山噴火以前の年代の所産であることを推定した。一方、1108年の火砕流被覆地帯の野外調査を実施したが、火山災害遺跡の発見には至っていない。他方、後期旧石器時代にあたるローム層序においては、発掘調査においていくつかの浅間火山の火山灰層を確認でき、十分な石器群編年の指標となりうることがわかった。 ただ、令和3年度は、新型コロナウイルスの大きな影響があって、十分な野外調査活動や研究集会、普及講演会などがまったくできず、初年度の進捗状況としてはやや遅れている状況下にある。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題の今後の推進方策については、新型コロナウイルスの影響を見極めつつ、以下のとおり実施する。 まず、浅間火山南麓における火山灰・火砕流降下地域での露頭の野外観察調査を実施し、遺跡の検出に努める。露頭での遺跡が確認できた場合、火山灰・火砕流の直接的影響を受けた災害遺跡なのか、時間的間隙を経たそうでない遺跡なのかを堆積環境をもとに判断し、前者の場合、遺構・遺物の検出を試みた上でその性格を推定する。 つぎに、浅間火山南麓に降下した火山灰・火砕流堆積物中、あるいはその前後の炭化物等を確認し、炭化物の放射性炭素年代測定を実施して、噴出年代を推定する。あわせて、従来確認されている火山噴火イベントとの対比を行う。 加えて、これまで調査が実施された浅間火山南麓の先史・古代遺跡も含めて、その様相を把握した上で地域社会像を考え、火山灰・火砕流などの噴火災害による過去の社会への影響を推定する。 また、浅間山南麓の原始・古代遺跡の様相や、過去の火山噴火について、コロナ禍での状況を見つつ、一般への周知として講座・講演会等を実施する。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルスの影響により、野外調査や研究集会、研究出張の機会が持てず、実質的な支出の減少が生じた。 残額は、次年度使用額として、年代測定費用や謝金、出張旅費、調査費、消耗品費等に充てる予定である。
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