2021 Fiscal Year Research-status Report
Ancient Hegemonism and the Local Communities in the Coastal Region of Palestine: An Archaeological Study
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21K00981
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Research Institution | Tokyo National Museum |
Principal Investigator |
小野塚 拓造 独立行政法人国立文化財機構東京国立博物館, 学芸研究部, 主任研究員 (90736167)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | テル・ゼロール / 古代イスラエル / エジプト新王国 / イスラエル王国 / 土器 / 青銅器工房 / キプロス |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、パレスチナの沿岸地域を事例に、古代西アジアに形成された領域国家や帝国についての理解を深めることである。覇権主義的な強国がパレスチナ沿岸地域の在地社会にどのような影響を及ぼしたのか、在地社会は外来勢力に対してどのように反作用したのか、といった「問い」に通史的にせまり、古代西アジア史の新たな一面の叙述を試みる。 その軸足として、ゼロール遺跡の調査成果の整理と再検討にもとづく事例研究を進めている。同遺跡が所在するシャロン平野は、時代を通して領域国家や帝国の「境界域」「辺縁部」に位置し続けたと目され、代表的な集落であったゼロール遺跡を検討することで、覇権主義勢力の進出とその影響について通史的に考察できると見込んでいる。 初年度となる2021年度は、国内での整理作業やデータ整備をほぼ計画通りに実施した。研究協力者の学生の助力を得て、天理大学文学部で保管されているゼロール遺跡の発掘調査資料(現場図面、調査日誌、現場写真、調査記録など)をデジタル化し、その整理と検討を開始することができた。1960年代に発掘された同遺跡の調査記録や資料の大部分は未整理であり、重要な遺跡であるにもかかわらず、その調査成果の詳細は出版されていない。本年度は特に、ゼロール遺跡のB地区およびC地区の発掘調査時の状況、出土遺構を確認、図面類のデジタルトレースなどを進め、この地区の大まかな歴史を把握することができた。中でも、後期青銅器時代の集落の様相が明らかになり、パレスチナに進出したエジプト新王国との関係を検討するための貴重な材料を得ることができたことが成果となった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ほぼ当初の計画通りに、ゼロール遺跡の調査記録の整理とデジタル化を継続的に進めることができた。これまでに未整理のままB地区、C地区の整理作業が大きく進展したことは今年度の研究成果であり、同地区の具体的な遺構やその層位的位置づけが明らかになったことで、同遺跡の後期青銅器時代への理解が飛躍的に深まっている。したがって、本研究の進捗状況について、概ね順調に進展していると評価した。 後期青銅器時代における周辺の拠点遺跡との比較および編年的な位置づけ、C地区で発掘されていた青銅器制作工房の解明、エジプト新王国の影響を示す資料の個別的な研究などが今度の課題となる。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度以降も、ゼロール遺跡の調査記録の整理とデジタル化を引き続き進め、同遺跡の居住史を復元する。E地区、D地区、A地区の順で整理作業を進め、後期青銅器時代、鉄器時代、ペルシャ時代、ローマ時代における同遺跡の物質文化を検討する。整理が完了し、層位的な把握が済んだ地区については、次に、イスラエル考古局に保管されている出土遺物の整理、検討を実施する。対象とする時代幅が広いことから、必要に応じて、海外の関連研究者とも連携しながら研究課題を進展させたい。研究成果は、2023年春の国際会議での発表を目指してまとめる予定である。
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Causes of Carryover |
当初2回を見込んでいた研究協力者による国内での資料調査が1回で済んだこと、および新型コロナウイルス感染症にともなう蔓延防止等重点処置を考慮し、国内出張を1件見合わせたことから、次年度使用額が生じている。次年度には資料調査のための出張が増えることから、当該助成金も旅費に充当する予定である。
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