2022 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
21K00993
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Research Institution | Kyoto University of the Arts |
Principal Investigator |
岡田 文男 京都芸術大学, 芸術学部, 客員教授 (60298742)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
大谷 育恵 京都大学, 白眉センター, 特定助教 (80747139)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 鉄黒漆 / 文化財建造物 / 漆塗装 / 仏像 / 漆工品 |
Outline of Annual Research Achievements |
本課題は、我が国における文化財建造物・仏像・工芸品等の修復において従来用いられてきた鉄黒漆(鉄イオンの反応で黒く染色した漆)の利用開始期の解明を目的とする。 文化財建造物の修理においては漆を大量に用いており、従来は無条件に鉄黒漆を用いてきた。本年度、文化庁が主催する「令和4年度文化財建造物修理主任技術者講習会(上級コース)」(11月25日)において、鉄黒漆の利用が江戸時代以降であること、それ以前は漆に掃墨(黒色顔料)を混和したことを報告し、本課題の研究成果を建造物塗装の現場主任技術者に周知することができた。さらに、12月25日、3月31日の2回、中尊寺において中尊寺金色堂の昭和大修理において鉄黒漆が用いられ、それが金色堂創建当初の漆塗装と異なることを金色堂堂内壁面の塗膜調査の結果をもとに報告する機会を得た。本研究は途上であるが、これまでの研究成果が文化財建造物の修理現場において着実に還元されることを予感させる結果となっている。 考古資料の調査では海外の例としてモンゴルで出土した漢代中央工官製の漆器その他の漆塗膜調査を行った。現地調査は研究分担者が行ったものであり、筆者の分析により中央工官製の漆器の塗膜断面に掃墨を検出することができた。このことから、中国漢代には中央工官で黒色漆とするのに掃墨を用いた確実な例となった。また、韓国慶州に所在するチョクセム44号墳から出土した5~6世紀の漆器の調査を行い、漆に掃墨を混和した漆器を検出した。このことから、韓半島では当時、漆に掃墨を混和するのが常道であったと考えられる。 また、国内で出土した漆器として北海道枝幸町所在の目梨泊遺跡から出土した9世紀と考えられる2点の刀の鞘の調査を行った。1点から掃墨を検出し、他の1点からは掃墨を未検出であった。2点の刀はいずれも中国大陸性と考えられるもので、両者についてはさらに継続調査が必要である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度、文化庁が主催する文化財建造物の現場主任者を対象に、現状で確認しうる鉄黒漆の始原について、最新の研究結果を報告できたことは本研究の最大の成果である。また、コロナ禍ではあったが、モンゴル、韓国で出土した漆器の塗膜調査をおこなったことは今回の研究成果であった。引き続き、鉄黒漆の始原について、日本のみならず中国・韓国の調査事例を増やすことにより、漆文化財の修復現場に還元しうる成果の蓄積に努めたい。
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Strategy for Future Research Activity |
基本的には当初の計画に従い、研究を進める予定である。ただし、国内の調査はこれまで比較的順調であったが、海外調査が遅延している。今後は当初予定していた中国における漆工品のデータの蓄積に努めたい。
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Causes of Carryover |
コロナ禍による行動制限がかかり、海外調査の一部が実施できず、研究上ならびに予算執行上、未実施項目が生じた。次年度に予算執行を可能な限り速やかに行う予定である。
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Remarks |
毎月1回、zoomによる漆の研究会を開催した。研究会の参加者は毎回約20人で、近畿圏、関東、北海道、韓国から参加があった。
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Research Products
(12 results)