2021 Fiscal Year Research-status Report
応用を目的とする硬骨魚類における棘条固定メカニズムの解明と多様性
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21K01009
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Research Institution | National Museum of Nature and Science, Tokyo |
Principal Investigator |
篠原 現人 独立行政法人国立科学博物館, 動物研究部, 研究主幹 (10280520)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 関節 / 固定装置 / 棘条 / 担鰭骨 |
Outline of Annual Research Achievements |
一部の硬骨魚類でしか知られていなかったの棘条固定装置の多様性や固定と解除メカニズムを調べ、魚類の機能形態学や進化を理解するとともに、少ない部品で強力な固定装置をつくる仕組みを解明する目的で、初年度は棘条固定装置を有する魚類の探索を実施した。エックス線CT撮影で鮮明な画像を得るために、数種について新鮮な標本を収集して、観察に適した標本の作製を行った。特に浅海性魚類の観察準備を整えた。深海性の魚種については、過去に作成された博物館標本等を利用して調査を進めた。 浅海性魚類については、ゴンズイ類(ゴンズイ科)、マツカサウオ(マツカサウオ科)、イシダイ類(イシダイ科)の標本を収集し、一部解剖による観察も実施した。このうちイシダイについては、軟エックス線撮影やエックス線CT装置により、背鰭第1棘条と担鰭骨の関節する場所で固定が起こり、強力な鰭膜を介して第2棘条以降が不動になることが明らかになった。 深海性魚類についてはソコマトウダイ(ソコマトウダイ科)の背鰭棘条と腹鰭棘条、サギフエ(サギフエ科)とフエカワムキ(ベニカワムキ科)の背鰭棘条に固定装置があることを確認した。エックス線CT装置によって観察を進めたが、メカニズムの解明には解剖学的手法による詳細な観察が必要なことが明らかになった。またソコマトウダイ科とサギフエ科は当初想定していなかったため、深海性魚類を広く調べることで棘条固定装置の多様性のさらなる解明につながる可能性を見出すことができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
水産重要種を含めて日本各地の漁港に水揚げされた魚類の生鮮個体を収集する他、国内の研究機関に訪問して棘条固定装置をもつ魚類を網羅的に探索する予定であったが、野外調査や出張が厳しく制限されたため、当初の予定どおりには研究を進められなかった。そのかわりに研究者コミュニティーを利用して、新たに入手できた魚類の生鮮個体や手元に集めておいた標本を詳細に観察することで調査を進めた。 エックス線CT装置で骨格を効果的に観察する方法を探り、特に魚類液浸標本を撮影するための条件や方法を整理することで、比較的短い時間で骨の形態情報を収集する方法に辿り着けたが、解析ソフトウェアの利用により3D画像で骨の特徴を観察できる環境だけを整えるにとどまった。 深海性魚類の中にも固定装置をもつ種が複数の追加で発見された。今回新たな発見された種から、棘条固定装置が硬骨魚類の中で広範に分布していることが明らかになった。また深海性魚類では生態よりも系統に強く関係した(系統制約のある)棘条固定装置が存在するが可能性も示唆されたが、未調査の種があるため詳細を議論するまでには至っていない。
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Strategy for Future Research Activity |
新鮮な標本の収集調査および標本を多数保管する他機関への訪問調査が予定どおりできなかった。調査を予定していた研究機関の一部で標本の利用に制限がかかることが新たに判明したため、標本借用よりも標本採集に重点を置く方法に適宜切り替えて研究を進めることにする。 現地での採集ができない場合も考えて、他機関の研究者とのネットワークを利用しつつ、種を特定して遠隔地から鮮魚標本を購入する手段も講じる。 エックス線CT撮影を主体にして骨学的情報を収集し、解剖が必要な種の選別を行う。固定装置に関係する筋肉や靭帯の観察を効率よく実施するために、「固定装置を有する日本産魚類リスト」の作成を急ぐ必要がある。このリストの充実化を図るために初年度において網羅的な標本調査と文献調査ができなかった発音魚と棘条固定装置の関係の解明を進める。 「固定装置を有する日本産魚類リスト」に基づき透明二重染色標本の作成を行いつつ、他の標本で解剖学的な手法による筋肉の観察を実施する。各種における固定装置周辺部分の骨格系や筋肉系についてふれている文献情報を収集し、必要な解剖部位の特定を行い、データ収集の効率化を図る。
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Causes of Carryover |
予定していた調査旅費が使用できなかったため未使用額が生じた。 次年度使用額分は旅費に回し、研究機関への訪問や標本採集の他、成果発表のための研究集会参加旅費に充てる。
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