2021 Fiscal Year Research-status Report
韓国における「子の出自を知る権利」と養子法―日本法の議論への示唆を踏まえて―
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21K01228
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Research Institution | Teikyo University |
Principal Investigator |
田中 佑季 帝京大学, 法学部, 助教 (00772980)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 子の出自を知る権利 / 子の権利 / 韓国法 / 養子法 / 生殖補助医療 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、日本と類似した課題を有する韓国の「子の出自を知る権利」と「養子法」に関する状況を検討し、考察を加えることで、我が国における「子の出自を知る権利」をめぐる議論に対してひとつの示唆を与えることを主な目的としている。 目的を達成するため、当該年度(令和3年度)では、日本及び韓国における「子の出自を知る権利」に関する法規定の検討及び法的課題を把握することとし、関連する文献の調査を主に行い、両国における「子の出自を知る権利」を取り巻く現状の把握及び情報の収集を通じて、法的な側面からの検討を進めていくことに努めた。なお、文献調査にあたっては、養子法との関連とともに、現在大きく議論されている生殖補助医療により生まれた「子の出自を知る権利」をめぐる現状にも焦点をあて、「子の出自を知る権利」に関する議論の全体像を把握することに重点を置いた。 情報収集にあたっては、まず日本及び韓国の書籍、論文等から、「子の出自を知る権利」をめぐる両国での議論状況を把握し、法的意義等に関して考察を深めた。さらに、専門家から知見を得るため、「子の権利」や「子の出自を知る権利」、養子縁組等に関するテーマを扱った複数の学会や研究会及び公開シンポジウムにも積極的に参加し、日本や諸外国の状況及び今後の方針等に関する知識を得た。また、日本・韓国両国の専門家とのオンライン上での意見交換会を開催し、「子の権利」及び「子の出自を知る権利」をめぐる実務での課題等に関する話を伺うなどして、知見を深めた。文献調査から得た情報や専門家から得た知見は、今後の研究にも非常に有益であり、考察を深めていくにあたって大変意義のあるものとなった。なお、当該年度の研究内容については、その内容を整理し、考察を加えた論文を現在執筆中であり、次年度(令和4年度)に公表予定である。本論文は今後の本研究の土台としても有意義なものとなると考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究は、韓国の「子の出自を知る権利」の現状を中心に検討及び考察を加え、日本の議論に対してひとつの示唆を与えることを主な目的としており、日本の現状を把握するとともに、外国法(韓国法)に関する研究が本研究の多くを占める。現在、日本及び韓国の文献調査を中心に研究を進めている段階にある。 日本では、「子の出自を知る権利」に関する議論は、生殖補助医療における議論を中心に展開されている。また、韓国における「子の出自を知る権利」に関する議論もまた、生殖補助医療との関係から主になされており、韓国において養子法と「子の出自を知る権利」に関する研究は考えていたよりも少なく、情報収集にあたっては想像以上の時間を要している。また、韓国の文献調査は、韓国のデータベースによる論文調査及び各関連機関が公表している資料を中心に進めているが、書籍等については、現地への自由な渡航及び現地での自由な文献調査が新型コロナウイルス感染症の影響から困難となっており、日本で韓国文献を入手することについての限界も感じながらの研究となった。しかし、日本法及び日本における議論に関する文献に多く触れ、さらに専門家の話を通じて知識を深めることで、日本の現状及び問題意識を整理することができ、また日本で入手可能な韓国文献及び韓国に関する邦語文献や韓国の専門家から知見を得ることで、今後の研究の方向性も整理することができた。 当初の研究計画では、当該年度(令和3年度)に「子の出自を知る権利」をめぐる現状及び法規定に関して研究内容をまとめる予定であったが、文献入手の困難さ等の上記理由の影響を受け、現在執筆中である。そのため、当初の計画よりも研究時期という点で「やや遅れている」と判断した。しかし、研究内容としては「おおむね順調に進展している」と考えている。当該年度(令和3年度)の研究成果は、次年度(令和4年度)に公表する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
まずは、当該年度(1年目(令和3年度))に行ってきた文献調査に関する研究内容をまとめ、論文として公表することに主眼を置く。研究成果としてまとめることで、これまで入手した情報を整理し、また課題を浮き彫りにすることに努める。その後、文献調査から得た知識や考察に基づき、韓国における実務の状況に関して知見を深め、考察を進めていきたいと考えている。 当初の計画では、2年目(令和4年度)に韓国へ現地調査に向かい、養子縁組関連機関への訪問及び韓国の研究者・実務家へのインタビュー等を通じて、現地の状況を把握し、検討を進める予定であったが、現在の新型コロナウイルス感染症の状況を鑑みれば、同年度内での韓国への自由な渡航及び関連機関への訪問は困難であることが予想される。韓国への渡航及び関連機関への訪問については、今後の様子を十分に見極めてその可否を判断したいと考えているが、訪問調査が困難な場合は、オンラインを活用して、文書での調査(アンケート調査)協力を依頼したり、オンライン会議を通じて専門家の話を伺ったりするなどの方法を実施しながら知見を得たいと思う。なお、2年目(令和4年度)に韓国訪問調査が困難な場合は、当初の予定を変更して、3年目(令和5年度)での訪問を実現させたいとも考えている(この場合も状況を十分に注視した上で韓国への訪問を検討することとする)。現在の世界的な状況を鑑みると、外国法(本研究では韓国法)に関する情報を得る方法及び手段については大きな課題であると言えるが、できる限りのことを実施し、研究を進めていきたい。次年度(令和4年度)の研究では、現地にいらっしゃる韓国の専門家はもちろん、日本の専門家からも多くを学ぶことができるよう、その方法を見極めながら研究を進め、日本及び韓国の現状を踏まえた研究を展開していきたいと考えている。
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Causes of Carryover |
養子法と「子の出自を知る権利」に関する文献が考えていたよりも少なく、日本及び韓国両国の文献調査について想像以上に時間を要したこと、日本及び韓国の関連文献とも主に論文データベース又はインターネット上で入手が可能であったこと、そして、新型コロナウイルス感染症の影響により、韓国の文献(書籍)については内容確認及び入手が困難であったこと等が、当該年度(令和3年度)で使用が予定されていた経費(物品費)よりも、実際に使用した額が非常に少なかった主な理由である。また、次年度(令和4年度)に当初の予定通り、現地への調査訪問が実現するか不透明な状態が続いていることから、調査訪問の準備として当該年度(令和3年度)に購入を計画していた必要機器(ICレコーダーやデジタルカメラ等)の購入を見送ったことも理由のひとつであると考えている。 次年度(令和4年度)では、当該年度(令和3年度)での研究成果(文献調査)を土台として、日本及び韓国の関連文献(書籍)の調査及び購入をより積極的に行い、研究に役立てたい。また、韓国への現地調査が可能であると判断され、実際に実施が実現した場合は、旅費の使用及び研究協力者への謝金としての支出、また訪問調査に必要な機器の購入を行いたい。今後、オンライン等で専門家から知見を得た場合、研究協力者への謝金としての支出、有料のウェブ会議ツールを使用した場合の使用料としての使用も計画している。
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