2022 Fiscal Year Research-status Report
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21K01239
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
三宅 新 北海道大学, 大学院法学研究科, 教授 (30621461)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 保険法 / 重大事由解除 / 危険増加法理 |
Outline of Annual Research Achievements |
これまでの研究を継続して、ドイツの危険増加法理を手がかりに、日本における重大事由解除の解釈論を展開していった。すなわち、2021年度までで、日本の重大事由解除による免責はドイツ法の危険増加法理に由来すること、それは日本の学者による意見書が大きな影響を与えていたこと、しかしドイツでは危険増加法理による免責は謙抑的になされていて日本で濫用の危険のあるような利用方法とは対照的であることを明らかにしてきた。 そこで2022年度では、これに引き続いてさらなるドイツ法の検討を加え、それと日本との比較検討を行い、新たな解釈論を展開することをした。具体的には、まずドイツでは、新たな保険契約法の下で、危険増加法理における危険増加要件と免責要件は別であるという解釈が最高裁で示された。これは、日本においてもたいへん示唆的であった。なぜなら、日本では、その立法過程たる法制審議会の部会会議において、解約と免責の要件を分けるべき旨の主張がなされた事実と、その主張を容れてなされたはずの対応が十分とはいえない面があったからである。すなわち、他保険契約の存在に関して、保険事故未発生の場合には告知義務違反として解約だけをすることで対処し、既発生の場合には要件の厳格な重大事由解除が用いられるという対応である。しかし、そこで厳格と考えられていたはずの重大事由解除は、今やかなり安易に用いられているのが現状である。 そこで以上から、日本でも明確に、重大事由解除の解約だけを認める要件と免責をも認める要件を分離するべきであるとの解釈論を示し、これを論文として公表した。 さらに、判例評釈として、故意の事故招致と重大事由解除の双方が問題となる事例を扱い、故意免責のみで対処可能な事案に対して、安易に重大事由解除をも認めるべきではないとの解釈を示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1年目たる2021年度にはドイツ法の危険増加法理に関する調査を中心としていたが、それを日本の重大事由解除に対する解釈論として発展させるまでには至らなかった。そのため、2年目たる2022年度には何らかの形でその成果を公表することを目指していたところ、日本の立法過程を踏まえて解釈論を展開してそれを50頁の論文として公表できた点が、おおむね順調に進展していると評価した最大の理由である。 また、本研究課題と密接に関わる判例評釈も公表できた点も、おおむね順調とする理由となっている。
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Strategy for Future Research Activity |
ドイツ法の検討後は、英米法の検討に移ることを考えている。しかし、ドイツ法については、まだ日本に十分に知られていない判例や解釈論が多く存在する。そのため、もうしばらくドイツ法の調査・検討を進めていく。 具体的には、かつてのドイツでは、重過失の責務違反には因果関係不存在特則が定められていたが、故意の場合は因果関係がなくても免責であった。しかし、これは判例によって、故意の内容が重大であり保険契約者側に著しい帰責がある場合にのみ、故意免責条項が適用されるとの制限的解釈がなされていた。これに対して、2007年保険契約法28条3項2文では、背信的欺罔行為による責務違反の場合に因果関係がなくても保険者免責となる規律が新設された。この規定を巡っては、立法理由が単純に予防目的と述べるにとどまっていることもあって、学説において様々に争いがある。 以上の点は、日本の重大事由解除においても、保険契約者側の悪質な行為をどのように評価すべきかを考えるにあたって、たいへん参考になる部分がある。少なくとも、悪質な行為を結論にどのように反映すべきかについては、日独ともに立法・解釈に苦労していることが窺えるため、そこから新たな示唆が得られそうである。 以上より、今後は、ドイツ保険契約法28条3項2文の調査・検討を進めていく。
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Causes of Carryover |
研究の内容上、ドイツ法の文献が多数必要になるところ、2023年度に改訂がなされる予定のドイツ保険契約法のコンメンタール類が多数ある。そのため、2022年度は、現在発売されていて2023年度には旧版になってしまうコンメンタール類を買わなかったことが、残額が生じた大きな理由である。2023年度は、この残額を上記コンメンタール類改訂版の購入費に充てる予定である。 また、新型コロナウイルスの感染拡大によって、2022年度も引き続き研究会・学会の多くがオンラインでの開催であった。そのため、旅費として想定していた部分の多くが使わずに済んだということも、残額が生じた理由である。もっとも、2023年度からはその多くが対面で開催されるようになる見込みであり、国立国会図書館も2022年度途中から抽選予約制がなくなったため、生じた残額はそれまで控えていた文献調査費用に充てる予定である。
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Research Products
(2 results)