2021 Fiscal Year Research-status Report
宗教保守をめぐる政治思想史研究――アメリカ合衆国と大西洋世界
Project/Area Number |
21K01322
|
Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
井上 弘貴 神戸大学, 国際文化学研究科, 教授 (80366971)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
片山 文雄 東北工業大学, 総合教育センター, 教授 (40364400)
石川 敬史 帝京大学, 文学部, 教授 (40374178)
森 達也 神戸学院大学, 法学部, 准教授 (40588513)
清川 祥恵 佛教大学, 文学部, 講師 (50709871)
野谷 啓二 神戸大学, 国際文化学研究科, 教授 (80164698)
|
Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
Keywords | 極右過激主義 / オルトライト / ブリティッシュ・イスラエリズム |
Outline of Annual Research Achievements |
実施初年度である令和3年度は、引き続くコロナ禍のため、夏に対面による研究会の開催を模索したものの、最終的にその開催を断念し、オンライン開催の可能性を探ることになった。試行錯誤の結果として、令和4年3月27日に第1回研究会をオンラインにて開催した。この第1回研究会では、各メンバーが本研究にどのように参画できるかについて、つまり本研究におけるそれぞれの役割分担について全体で確認した。そのうえで研究代表者のほうより、本研究の趣旨説明も兼ねて「環大西洋における極右諸勢力の思想的動向とその宗教的前提」と題した報告をおこなった。 この報告では、2021年1月6日にアメリカ合衆国の連邦議会議事堂で発生した事件を撮影した動画を手がかりとして、どのような政治的あるいは宗教的シンボルが、旗やプラカード、ないしはワッペンやTシャツ等のかたちをとって現場に持ち込まれたのかについて、それらシンボルの解読を中心に検討をおこない、参加者と意見交換をおこなった。これにくわえて報告では、事件に参加したプラウド・ボーイズ、オース・キーパーズ、スリー・パーセンターズら極右過激主義の諸団体の思想的背景を考察した。とくに報告の後半では、今日の極右過激主義にとって重要なテキストとしてみなされているウィリアム・ルーサー・ピアース(William Luther Pierce)の小説『ターナーの日記(The Turner Diaries)』の一部を分析し、その分析をつうじてこのテキストに通底している反ユダヤ主義を明らかにした。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
コロナ禍において対面での研究会実施ができなかったことにより、令和3年度は研究の進捗に遅れが生じたというのが実際である。本研究の主たる検討対象である宗教保守を明らかにするための予備的作業を前進させることはできたものの、宗教保守それ自体の検討にまで十分に踏み込むには至っていない。次年度の立て直しをはかりたい。 そうではあるが、予備的作業をつうじて明らかにできたことは少なくない。2021年1月6日の連邦議会議事堂周辺では、メディアの機材を奪い、それらを破壊するパフォーマンス的行動がたとえばなされた。それは「ロープの日(Day of the Rope)」になぞらえられた。このロープの日は、ピアースの『ターナーの日記』に登場する架空の出来事であり、ピアースの作品世界が極右過激主義の世界観に与えている影響の深さが確認されたが、令和3年度の研究では、この『ターナーの日記』が前提としている反ユダヤ主義をテキスト分析から明らかにした。反ユダヤ主義はアメリカ合衆国の今日の右派の思想にとって中核を成す特徴と言ってよく、オルトライト(alt-right)ともうひとつのオルトライト(alt-lite)とを区分する指標として機能する。 反ユダヤ主義の系譜は多方面から考察されなければならない一方、アメリカ合衆国の極右思想に影響を与えたクリスチャン・アイデンティティの考え方を遡れば、ブリティッシュ・イスラエリズムと呼ばれる異端的な宗教的主張へと至ると言える。これまでの進捗の結果から、このブリティッシュ・イスラエリズムの明らかにすることによって、本研究の前進を図ることができるという見通しを得つつある。
|
Strategy for Future Research Activity |
令和4年度については、夏と年度末の2回、研究会を開催し、研究を推進することを予定している。この2回の研究会では引き続き、メンバー間での共通理解の獲得にくわえて、各自の研究の進捗について確認するための報告の機会を得たいと考えている。とくに夏の研究会では、相川裕亮『ビリー・グラハムと「神の下の国家」アメリカ』(新教出版社、2022年)の合評もおこない、宗教保守についての共通理解を深めることを予定する。 令和4年度はまた、上記の研究会以外の場も活用して、研究を推進していく予定である。研究代表者は7月に開催が確定されている日本イギリス哲学会の関西部会において、ブリティッシュ・イスラエリズムにかんする報告をおこなうことを予定している。また、日本学術会議政治学委員会政治思想・政治史分科会が日本政治学会2022年度研究大会で企画する分科会においても、研究代表者は報告を予定しているところである。これら研究会開催や各種の研究報告をつうじて、研究成果の発表をさらに推進し、それによって各自の論文の執筆ならびに発表へと精力的につなげていきたいと考える。
|
Causes of Carryover |
引き続くコロナ禍のために対面での研究会が開催できず、また、多くの学会がオンライン開催となったため、当初予定していた出張費の使用が困難となったことが使用額に大きな変化が生じた主たる理由である。次年度については、ワクチン接種の普及等により、対面での研究会開催の可能性がこれまでよりもみえてきているため、あるいは対面での学会の機会も増えることが予想されるため、出張費の使用の機会が平年並みに戻り始めることが想定される。これらの機会を有効に活用することで、助成金を使用していく予定である。
|
Research Products
(4 results)