2021 Fiscal Year Research-status Report
A study of the influence of biological evolution on the dawn of neoclassical economics in Britain and the United States in the 1890s and 1930s
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21K01409
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Research Institution | Otaru University of Commerce |
Principal Investigator |
江頭 進 小樽商科大学, 商学部, 副学長 (80292077)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | Alred Rotka / Paul Samuelson / Vito Volterra / 1920年代 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は,力学により基礎づけられている現代経済学の中に生物学的基礎があることを明らかにして,経済学の新たな可能性を示すことを目的としている。これまで,19世紀初頭から20世紀初頭までの経済学と進化論の関係を明らかにしており,本研究はこれらの研究の続きにあるものである。 18世紀のスコットランドおよび大陸ヨーロッパにおけるダーウィン以前の進化論とそれに関わる社会思想、19世紀に入ると旧歴史学派の思想の中の前ダーウィン的な進化論の要素、ダーウィン登場以後は、新歴史学派、アメリカ制度学派、優生学思想と統計学、スペンサー主義とマーシャルなどの関係が精査されてきた。その中で物理学と生物学の関係は「科学」としての経済学の成立過程に大きな影響を与えていた。しかし、これらの議論の中では、進化論は、古典力学に基づいた物理学とは、対立的に用いられることが多く、特に限界革命以降の理論経済学は、力学的な経済学として、社会進化論的な立場を取る歴史学派から批判の対象となっていた。 ところが、20世紀に入ると古典力学の体系を用いた、生物進化論の統合が行われる。生態系のモデルを構築したロトカとヴォルテラの業績がその出発点に存在する。そして、それらの成果に立脚し、サミュエルソンが『経済分析の基礎』の中で、生態系の動学的理論を市場の同額理論の中に取り込んだ。これにより、経済学の中で進化論的な要素は古典力学に基礎を置いた経済学の中に吸収されることになる。 本年度の研究では、ロトカ自身が、動学的生態系の理論にどのように到達したのかを調査するための基礎資料の収集と読解を行った。コロナ禍下での資料収集はwebに頼らざるを得ず、困難を極めたが、最終的には、ロトカの個人資料等も含めた100を超える資料が集まっている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、研究期間初年度として、基本的な資料収集を行った。特に、プリンストン大学のアルフレッド・ロトカペーパーの現地調査を行う予定であったが、新型コロナウイルスの感染拡大が収まらなかったため、実施を取りやめた。しかし、資料の多くはデジタル化されており、webでの閲覧が可能であった。直接印刷はできないため使い勝手は悪いが、これを全体的に目を通すことで、刊行されていないロトカの研究状況について、把握することができた。また、ロトカ関係資料、サミュエルソン関係資料で購入可能なものは、ほぼ取り寄せ整備することができた。 本研究ではサミュエルソンがFoundationの中で応用したロトカ-ボルテッラモデルの基礎となった生態系の動学モデルの形成過程に焦点を当てているが、ロトカは人口論モデルの研究も行っており、その点においてマルサスなどの経済学者への言及もある。また保険会社に勤務していたこともあり『人間の経済的価値』に見られるように、保険料算出の根拠となる将来所得の推計などに当時のアメリカでの影響力が強かったアーヴィング・フィッシャーの研究への参照もある。ロトカ自身は経済学を正式に学んだことは各種の資料からも確認できなかったが、サミュエルソンとの間の書簡は存在している。これはサミュエルソンが、ロトカに生態系の変動モデルの数学的解釈について問い合わせたものであった。 これにより、ロトカとサミュエルソンの個人的な関係があることがはっきりしたが、問題は、数学的応用を超えて、どこまでロトカの影響がサミュエルソンに見られるかという点にある。現在は資料解釈に加えて、数理モデル構築の過程のにつて思考の類似性を導き出すことに進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究により、研究の資料収集はほぼ終わった。コロナが収束していてアメリカへの渡航制限が解除されれば、電子化されていないデータを見るために、プリンストン大学での調査を行う予定である。これにより、ロトカ関係資料で現在入手可能なものはすべてそろうことになる。 これを元にサミュエルソンのFoundation形成過程における生物進化論の包摂を明らかにする。現在の主流派経済学では、進化ゲーム論が登場するまで明示的に進化論が登場することはなかったが、概念の基礎には長らく潜在していたことを明らかにする。 アメリカにおける力学と進化論の統合とは対照的に、イギリスではマーシャルの後継者のピグーは、有機的成長を社会進化として捉えており、サミュエルソンとはまったく異なる道を歩むこととなる。マーシャル-ピグーもまた厚生経済学を通じて、現代経済学の理論的な基礎となるのだが、ここでは力学と生物学の対立は解消していないように見える。このイギリス経済学の流れを一つのベンチマークとしながら、戦後のアメリカ経済学の発展を考えるのが、今後の第一の課題である。
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Causes of Carryover |
新型コロナの感染が収束しなかったため予定していた国内の調査旅行がキャンセルとなったため。
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Research Products
(1 results)