2023 Fiscal Year Research-status Report
生産の国内回帰:貿易、賃金、および社会厚生への影響
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21K01457
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
須賀 宣仁 北海道大学, 公共政策学連携研究部, 教授 (70431377)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | オフショアリング / リショアリング / 比較優位 / リカード / 賃金 / 社会厚生 / 独占的競争 |
Outline of Annual Research Achievements |
令和5年度は、前年度までに完全競争下で示されたリショアリング(生産の国内回帰)の原理が、製品差別化を伴う不完全競下(独占的競争下)で成立するか否かについて考察した。この分析は、リカード的な比較優位の原理(国際生産性格差に基づく貿易原理)を議論から捨象する一方で、工業製品に典型的な独占的競争という市場構造をモデルに導入することにより、これまで本研究で明らかにされたリショアリングのメカニズムとその効果を再考したものである。分析の結果、前年度までの分析と同様に、一定の条件のもとでオフショアリング・コスト(生産の海外移転にともなう費用)の低下がリショアリングを引き起こすことが確認された。 本分析の重要な特徴は、生産拠点に関する企業の立地選択を明示的に考慮した点にある。この分析では、オフショアリング(生産の海外移転)を企業による海外生産拠点の設立として描写しており、一般的な産業空洞化論の想定により忠実なモデルを展開している。これは、オフショアリングをより抽象的に下流部門の立地の変化として捉えた前年度までの分析とは大きく異なる点である。もっとも、リショアリングに関する主要な既存研究には、本分析と同様に、独占的競争型の貿易モデルを想定したものもある。しかし、それらの分析では、組み立て作業のような下流の生産工程ではなく、部品・半製品などの上流の生産工程のリショアリングに焦点が当てられている。さらに近年は、リショアリングの要因として生産のオートメーション化を強調する議論が支配的であり、オフショアリング・コストの役割について十分な考察がなされていない。生産拠点に関する企業の立地選択を明示的に考慮し、かつ、下流の生産工程におけるリショアリングの要因としてオフショアリング・コストに着目している点で、本分析は従来の主要な議論とは一線を画するものとなっている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
令和5度は、分析の進捗および研究成果の発表に係る作業において当初の目標から遅れが生じている。当初の予定から遅れが生じている理由は主に二つある。第一に、前年度までの伝統的な完全競争モデルにおいて示されたリショアリング原理の頑健性を確認するため、独占的競争モデルにおける分析を試みたことである。現実に対する説明力を重視する近年の理論研究の傾向を踏まえ、生産拠点に関する企業の立地選択を導入したより現実的な設定のもとで分析した方が望ましいと判断したことがその理由である。第二に、前年度と同様に、当該研究課題とは別の研究テーマに係る作業に多くのエフォートを傾けたことである。この研究は他の研究者との共同研究であり、作業分担や日程調整等の都合上、同研究の論文作成を優先する必要があった。結果として、当該研究課題に係る作業を中断する期間が度々生じることとなり、当初目標としていた論文の完成には至らなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
令和6年度中にオフショアリング・モデルの論文を完成させ、研究成果の発表(セミナー報告・学会発表・学術誌への投稿等)を行う。具体的には、これまで取り組んできた(i)基本モデル(リカード型二国二財モデル)とその拡張(多数国モデルと非線形モデルにおける分析)、および(ii)独占的競争型モデル(生産拠点に関する企業の立地選択)に関する論文を本年度中頃までにそれぞれ完成させる。当初予定していた残りの二つのサブテーマ(二要素モデルの分析および一要素モデルの分析と二要素モデルの分析の統合)に関する研究は取りやめ、上記の二つの研究成果の発表することにより、当該研究課題の主たる研究目標を達成することを目指す。
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Causes of Carryover |
令和5年度において次年度使用額が生じた理由は、現在までの進捗状況で述べたように、新しい分析の試みおよび当該研究課題とは別の研究テーマへのエフォートの集中により、研究の進捗に遅れが生じ、英文校正や学術誌への論文投稿など、研究成果の発表に係る経費が未使用となったことである。 次年度使用額(約566千円)の使途については以下の通りである。論文投稿に係る「その他」の支出(英文校正料・論文投稿料)に約200千円、論文報告に係る「旅費」に約246千円を割り当てる。「物品費」と「人件費・謝金」は交付申請時と同じくそれぞれ100千円と20千円となる。本使用計画は、当該年度に支出予定であった研究成果報告に係る諸経費を当該年度以降に繰り越したものであり、使用内訳と金額の観点から妥当なものと言える。
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