2021 Fiscal Year Research-status Report
ノイズのある中規模量子計算機を用いた量子多体系の計測と制御
Project/Area Number |
21K03388
|
Research Institution | Shizuoka University |
Principal Investigator |
尾張 正樹 静岡大学, 情報学部, 准教授 (80723444)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
丸山 耕司 大阪市立大学, 大学院理学研究科, 客員教授 (00425646)
加藤 豪 日本電信電話株式会社NTTコミュニケーション科学基礎研究所, メディア情報研究部, 主任研究員 (20396188)
|
Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
|
Keywords | t-design / 量子制御 / 量子コンピュータ / 量子多体系 / ユニタリ操作 / ランダムユニタリ変換 / 量子カオス |
Outline of Annual Research Achievements |
ユニタリt-designとはユニタリ行列の要素のt-次までの多項式に関する平均がHaar測度と一致するユニタリ群上の測度である。3-designであるクリフォード群上の一様分布などを除いては、実用的な計算量で生成できるt-designは殆ど見つかっていない。そこで、本研究では上記の定義を近似的に満たす近似t-designに着目をした。 特に今年度は量子制御と近似t-designの関係を明らかにすることに目標に置いた。Local random circuitやDiagonal random circuitなどの従来のランダム量子回路を用いた近似t-design作成法の多くは、2種類のランダムユニタリ変換を交互に繰り返す形になっている。この事実は、任意の2つのユニタリ群の閉部分群に対して、その2つの閉部分群がユニタリ群全体を生成するならば、2つ種類のランダムユニタリ変換を交互に掛け続けることで必ず近似t-designが得られることを示唆している。今年度はまず、この事実を証明した。 次に量子制御理論と上記で得られた定理を組み合わせ量子多体系に適用する。特に量子多体系が直接アクセス可能だが小さなプローブ系と直接アクセス不能な環境系に分けられる状況を考える。このような状況では、プローブ系へのユニタリ操作のみで全体系が制御可能になる例が量子制御の過去の研究から多数知られている。この問題設定において、上記のプロトコルは、ランダムな時刻にプローブ系上のランダムユニタリ変換を瞬時に行うというプロトコルで近似できることが分かる。そこで、以上の全てのステップを厳密に数学的に証明することで、多くの量子多体系上で、その小さな部分系へのランダムアクセスのみで近似t-designを実現するプロトコルが存在することを示した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ノイズのある中規模量子計算機を用いた間接制御により量子多体系の計測と制御を行う手法を開発することが本研究課題の目的である。既に量子多体系のハミルトニアンを完全に同定することができれば、間接量子制御により実現可能なユニタリ操作は特定されることが知られている。しかし、ユニタリ操作を具体的に実現するには、ハミルトニアンの詳細に依存して、特定のタイミングで、プローブ系に演算を施していく必要がある。一方、間接制御で量子多体ハミルトニアンの同定プロトコルもまた、非常にコストの高いものである。そのため、完全にハミルトニアンの詳細が分からなくても、間接制御で実行可能である情報処理を明らかにすることは、本研究課題で考える間接制御量子系の有用性を示すために重要である。このような考えから、今年度は、当初の研究計画を少し変更して、まず、ユニタリt-designの実現方法を開発することから本研究課題を開始することにした。ここで我々が開発したプロトコルは、プローブ系にランダムなタイミングでランダムなユニタリを演算するという単純なもので、多体系ハミルトニアンの詳細に一切依存しない。したがって、このプロトコルは、現実的な間接制御量子系で実現可能であると考えられる。さらに、ユニタリt-designは、量子通信、量子トモグラフィ―などにおいて有用であることが知られている。したがって、今年度の結果は、間接制御量子系は、ハミルトニアンが不完全にしか同定されておらず、プローブ系へ精密な演算を実行する事が出来なくても、有用な情報処理が可能であることを示している。今年度の結果は、本研究課題で最終的に開発すべき量子多体系の計測・制御プロトコルに対して、具体的な示唆を与えている。すなわち、系を完璧に計測・制御できなくとも、部分的なハミルトニアンの同定ができれば、プロトコルは十分に実用的であるといえる。
|
Strategy for Future Research Activity |
今年度は、当初の予定を変更して間接制御量子系を用いたユニタリーt-designの生成法を開発した。この結果は、上記でも説明したように、予想外に波及効果の大きな結果である。そのため、今後の研究計画を以下のように一部変更する事にする。今年度の結果は、間接制御可能な量子系におけるユニタリーt-designの簡便な生成法を与えるものである。しかし、この方法で生成されたユニタリーt-designの性質については、今年度の結果だけでは明らかになっていない。そのため、まずは、具体的に量子多体系において本プロトコルを通常の計算機でシミュレーションを行う事により、t-designの収束の速さが、ランダムユニタリをプローブ系に演算する頻度や、ハミルトニアンの性質等の様々なパラメータにどのように依存するのかを明らかにする。具体的には、XY模型、横磁場イジング模型、ハイゼンベルク模型などの代表的なスピン鎖に対して本プロトコルのシミュレーションを実行する。このように、本プロトコルの性能を明らかにする事を今後の第一の目標とする。 次に、ユニタリt-designが実行可能であるという事は、任意のユニタリが本プロトコルで、近似的にランダムに実現されているという事である。このことは、プローブ系に演算するタイミングと、演算するユニタリ演算子という2つのパラメータで、全ユニタリーが近似的にパラメータ化される事を示している。よって、本プロトコルは、間接制御量子系を用いた新たな【パラメータ化量子回路】の実現方法を与える。したがって、Quantum Eigen solverやQuantum Circuit Learningといったパラメータ化量子回路を用いた量子アルゴリズムが、このパラメータを最適化する事により間接制御で実現できることを示す事を今後の第二の目標とする。
|
Causes of Carryover |
今年度は、数値シミュレーションのためのワークステーションを自作することが主たる研究費の使い道であったが、コロナ禍の影響で、CPUの輸入に障害が出ており、年度内の納入が不可能であった。これが、次年度使用額が生じた主たる理由である。次年度は、前期の内にワークステーションのパーツの購入を行う予定であるため、次年度使用額は消化される予定である。
|
Research Products
(9 results)