2021 Fiscal Year Research-status Report
補間法によるランダムスピン系の自己平均性と時間発展に関する研究
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21K03393
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
糸井 千岳 日本大学, 理工学部, 教授 (70203122)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | スピングラス / レプリカ対称性の破れ / ランダム量子スピン系 / スピンの重なり / 自己平均性 / 平方根補間法 / Parisi公式 / 臨界次元 |
Outline of Annual Research Achievements |
有限次元の短距離のランダム交換相互作用を持つIsing模型であるEdwards-Anderson(EA)模型が,無限次元の模型であるSherrington-Kirkpatrick (SK) 模型の振る舞いとどれだけ類似しているかという,未解決問題の解決を大きな目標としている.ランダムスピン系のサンプルは定まった確率法則で作成されても2つと同じサンプルはなく,物理量の観測値がサンプル平均に一致する時,その量は自己平均的であるという.あるサンプルの自己平均的な物理量の観測値は普遍的で,他のサンプルでもその値が観測される.本研究では異なるレプリカ間に対するスピンの重なり秩序演算子に注目する.この演算子の自己平均性の破れはレプリカ対称性の破れ(RSB)として知られている.これまでの統計力学の経験から有限次元のスピン模型はある上臨界次元という次元から上では無限次元模型,すなわち平均場模型と同じ臨界現象を示す.もし,それに従えば,EA模型に有限な上臨界次元が存在し,それ以上の次元でSK模型と同じ臨界現象を示す.もし,ランダムスピン系もそれに従えば,EA模型に有限な上臨界次元が存在し,それ以上の次元で対応する無限次元の模型であるSK模型と同じ臨界現象を示す.「EA模型の上臨界次元が6以上であることは厳密に得られているが,スピンの重なりの分散などについて,詳細は未知である.SK模型ではRSBの存在が示されているので,RSBがEA模型の上臨界次元を決めている可能性があり,上臨界次元の性質をRSBという視点から考えることが突破口となる可能性がある.問題解決のために,SK模型におけるRSBがいろいろな摂動に対して,安定かどうかという問題も重要である.この観点から,SK模型およびEA模型に横磁場や,XY交換相互作用などの量子摂動の効果を, 厳密摂動論と新しい平方根補間法によって解析した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
Sherrington-Kirkpatrick(SK)模型とEdwards-Anderson(EA)模型の臨界現象や相構造がどれだけ類似しているかという問題解決のために,SK模型におけるレプリカ対称性の破れ(RSB)がいろいろな摂動に対して,安定して存在するかという問題は重要である.SK模型の持つRSBの普遍性は今まで外部磁場など種々の摂動に対して調べられて来た.昨年,Warzelらによって典型的な量子摂動である横磁場の印加のもとでの中心Gauss分布に従うSK模型におけるRSBの存在が厳密に証明された.彼らはFalk-Bruch不等式と,SK模型の交換エネルギーの期待値の評価,およびGauss分布に従う交換相互作用についての部分積分を用いることによって,異なるレプリカ間のスピンの重なり演算子の分散が有限になる結合定数領域の存在を示した.量子スピン系でRSBの存在が厳密に示されたのはこれが初めてであり,大変重要な結果である.我々は平方根補間法をより広いクラスの古典および量子ランダム系へ拡張することにより,Warzelらの定理を非Gauss対称分布の場合に拡張し,この意味でのRSBの普遍性を示した.また,我々は古典的なEA模型に対し,量子摂動であるランダムな弱い横磁場摂動やXY摂動の存在する場合のエネルギー固有状態をKirkwood-Thomas-Datta-Kennedyの厳密摂動論を用いて求めた.Kirkwood-Thomas-Datta-Kennedyの方法においては,摂動展開の次数についての漸化式がエネルギー固有状態と固有値に対して導かれる.この漸化式の状態に対する演算子が縮小写像であることを示し,このことによりBanachの不動点定理を用いて,摂動展開の収束性を保証することができた.現在これら,3編の論文を投稿中である.よって,研究はおおむね順調に進展している.
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Strategy for Future Research Activity |
これまで証明したより一般の非中心分布に従う交換相互作用を持つ横磁場強磁性Sherrington-Kirkpartick(SK)模型においても,結合定数によってはレプリカ対称性の破れ(RSB)が予想される. 現在進行中の問題として,Warzelらの中心Gauss分布の場合のRSB存在定理を非中心Gauss分布の場合に拡張しようと試みている.このような模型で異なるレプリカ間のスピンの重なり演算子の分散が有限であることを示すことは容易である.しかし,交換相互作用が強磁性成分を持つので,強磁性秩序演算子に長距離秩序が現れる結合定数領域が予想される.レプリカ対称で,Z2対称なGibbs状態が強磁性秩序演算子の長距離秩序を示すと,異なるレプリカ間のスピンの重なりの分散は自動的に有限となるので,Z2の自発的な破れと純粋なRSBを区別することができなくなる.これらの現象を区別し,純粋なRSBの存在を示すためには,Z2対称性を破るGibbs状態によって,スピンの重なりの分散を評価しなければならない.このようなGibbs状態において,異なるレプリカ間のスピンの重なり演算子の期待値自体が有限となるため,分散が有限となる証明は困難を極めると考えられる.現在の段階では,Warzelらの方法によって,横磁場がない場合の強磁性SK模型におけるde Almeida-Thouless線を理解しようと試みている.また,横磁場がある場合には,横磁場強磁性SK模型において,交換相互作用の強磁性成分が弱い場合に強磁性秩序演算子の長距離秩序が存在しないことを,Lie-Trotter-Suzukiによる量子スピン系に対する経路積分表示を用いて証明しようと試みている.これらの試みと同時に,Edwards-Anderson(EA)模型,横磁場EA模型,ランダムHeisenberg模型などに対する解析も進めていく予定である.
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Research Products
(3 results)