2021 Fiscal Year Research-status Report
時間分解測定法を用いた電荷移動型金属有機構造体試料の光励起による相制御の検討
Project/Area Number |
21K03427
|
Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
石川 忠彦 東京工業大学, 理学院, 助教 (70313327)
|
Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
|
Keywords | 光誘起ダイナミクス / 光誘起電荷移動 / 金属有機構造体 / 電荷移動相転移 / 光誘起構造変化 / 低次元系 |
Outline of Annual Research Achievements |
電荷移動型金属有機構造体(CT-MOF)を測定対象として、光励起による1次元磁石の生成消滅のような磁性コントロールを究極な目標とした光誘起ダイナミクスの研究に取り組む事を本課題の研究課題の方針としている。初年度の計画としては、分子内振動モードの光学スペクトルの時間変化を観測する為の短パルスレーザーを用いた中赤外域時間分解測定系を立ち上げ、価数変化、分子構造変化のダイナミクスを観測し、議論する事としていた。 昨年度後半から検討物質とした鉄原子とTCNQ分子から成るCT-MOFについて、定常物性の光学的な評価をおこなっていた。これを継続し、温度変化の際に特徴的な電荷移動で現れる3つの物質相について、その電子構造の詳細を、量子化学計算を援用するなどして解明を試みた。これにより、これまで報告されていた電荷移動型相転移による電子構造変化を光学スペクトル変化として観測する事に成功し、続く時間分解分光測定の指針が得られたのが、期初の成果である。 次に、従来から使用している時間分解分光測定系を改良する作業を行い、これを拡張する形で、分子内振動領域である中赤外域の光誘起過渡状態のスペクトル測定を行う装置を立ち上げる事に成功した。これにより、本物質の室温相において、電荷移動励起の際に起こる電子構造変化の様子を中赤外から紫外域にわたる幅広いエネルギー域において観測する事に成功し、また特に中赤外域において、分子内振動モード観測に必要な5 cm-1程度の高分解能の過渡状態スペクトル測定にも成功した。 この成果により、本物質では、当初予測しなかった光励起状態特有の素励起が出現する事が判明し、その素励起の起源についての探索に現在取り組んでいる。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
対象物質であるCT-MOFは、温度変化による相転移で結晶を構成するFeとCl2Anイオン間で電荷移動が起き、1次元鎖磁石構造が生成消滅する、という特徴を持つ物質である。この電荷移動相転移の際に起こる電子構造変化を光学スペクトル変化として観測し、その電子構造変化を理解する事は、本研究で調べたい光誘起ダイナミクスを観測し、そのメカニズムを理解する上で必須であった。そこで、期初は定常状態の反射スペクトル測定を精力的に行い、本物質の示す電子構造変化を理解する事を試み、成功した。この知見を基にして、時間分解分光測定の励起条件を設定し、室温でのフェムト秒レーザーを用いた時間分解分光を試み、電荷移動励起をきっかけとする高速かつ高効率の状態変化の観測に成功し、また定常分光の知見から、それが実際にイオン間の電荷移動がある程度大きな領域で発生した事による事を明らかにした。 更に、当初計画通りに、分子内振動領域での高波数分解能を持つ過渡状態スペクトルの時間分解測定装置の立ち上げを行い、これに成功した事から、計画は順調に進展していると考えている。これにより、価数変化に敏感な分子内振動モードに関連した反射率スペクトルの時間変化の観測に成功した。その結果は、上記電子遷移領域の時間分解分光の結果と相補的なものであり、現在解析を進めている。 また、この高波数分解能の測定により、分子内振動モードの変化とは別に、当初期待していなかった光誘起状態特有の素励起の発見をした可能性があり、理論家との協力体制を構築し、そのメカニズムに迫るべく議論を始めている。これは、当初計画を越えた展開である。
|
Strategy for Future Research Activity |
本年度の成果として、計画通りに、時間分解赤外スペクトルの測定系の立ち上げに成功し、従来から測定可能であった電子遷移領域の時間分解分光も含めて、室温での光誘起ダイナミクスの観測は、かなり進める事が出来た。対象物質であるCT-MOFは、温度変化により2段階の相転移を起こす事が特徴であるので、低温相である室温での測定だけでは無く、より高温の中間相と高温相での光誘起変化の測定はまだ本格的に取り掛かれていない。そこで、温度変化による相転移の影響なども含めて時間分解測定を継続していきたい。 当初予測していなかった複雑なスペクトル変化をしている事が判明し、光誘起状態特有の素励起が発生していると考えられるため、この素励起の正体について考察する為に、低温相の中での温度依存性を測定する事が重要ではないかと考えている。立ち上げを行った分子内振動領域の時間分解測定系を活用する事で、分子内振動モードの光誘起変化と電子遷移吸収の光誘起変化を比較検討する事で、解明していきたい。 また、時間分解電子線回折の測定についても開始する予定である。年度の前半で単結晶試料の薄片化等の検討を行い、後半に実際の測定に取り掛かれるよう取り組んでいきたい。時間分解分光で観測される素励起は、光誘起状態において、定常状態では観測されない特徴的な構造変化の存在を示唆していると考えており、時間分解構造解析において、その正体に迫る事が出来るのではないか?と期待している。
|
Causes of Carryover |
本課題の遂行は、順調に進んでいるが、現在猛威を振るっている新型コロナウイルスの感染状況の改善が見られないために、当初予定していた学会参加等の出張予定が全てキャンセルとなってしまった。この為に、旅費の申請額が当初予定に比較して大幅に少なくなってしまった。しかし、この為に、次年度は多くの国際会議等が対面での再開を模索しており、それに積極的に参加する事で、本課題の成果発表に努めていきたい。 また、同じくコロナウイルス蔓延の影響と聞いているが、本年度後半に特に、購入希望した物品の供給が滞り、納期が年度末までに確約出来ないケースが多々発生した。これらの物品は、本課題遂行に必要とする光学系の改良に必須のものであるため、次年度での購入とする事が妥当であると判断した。この為に、次年度での使用へと計画を変更した。
|
Research Products
(18 results)
-
-
[Journal Article] Photoinduced oxygen transport in cobalt double-perovskite crystal EuBaCo2O5.392021
Author(s)
M. Hada, S. Ohmura, T. Ishikawa, M. Saigo, N. Keio, W. Yajima, T. Suzuki, D. Urushihara, K. Takubo, Y. Masaki, M. Kuwahara, K. Tsuruta, Y. Hayashi, J. Matsuo, T. Yokoya, K. Onda, F. Shimojo, M. Hase, S. Ishihara, T. Asaka, N. Abe, T. Arima, S. Koshihara, Y. Okimoto
-
Journal Title
Applied Materials Today
Volume: 24
Pages: 101167
DOI
Peer Reviewed / Open Access
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
[Presentation] 電荷移動相転移を起こす金属有機構造体(NPr4)2[Fe2(Cl2An)3]の光誘起ダイナミクス2021
Author(s)
石川忠彦, 加藤望根, Samiran Banu, 田久保耕, 沖本洋一, 腰原伸也, 江口尚輝, Jian Chen, 関根良博, 高坂亘, 宮坂等
Organizer
2021日本物理学会秋季大会
-