2021 Fiscal Year Research-status Report
Development of energy-conversion materials by control of supramolecular organization and vibronic interaction
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21K05004
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
中野 義明 京都大学, 理学研究科, 助教 (60402757)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
吉野 治一 大阪市立大学, 大学院理学研究科, 教授 (60295681)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 有機熱電材料 / 分子性導体 / 超分子化学 / フォノンエンジニアリング |
Outline of Annual Research Achievements |
低熱伝導率、低次元性、強相関電子系という特徴を持つ有機物に着目し、有機熱電材料の開発を目的として、主に以下の成果を得た。 【N-アルキルDABCOとTCNQから成るラジカルアニオン塩の開発】1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(DABCO)をN-アルキル化したRDABCO(R = Me, Et, Pr, Hex)カチオンを対成分とするTCNQラジカルアニオン塩の開発を行い、(PrDABCO)(TCNQ)2、(HexDABCO)(TCNQ)2、(MeDABCO)2(TCNQ)I、(EtDABCO)(TCNQ)を得た。これらの塩では、TCNQ分子は1次元積層カラムを形成しており、半導体的導電挙動を示した。また、予備的な測定で、(HexDABCO)(TCNQ)2は、室温で0.4 W K-1 m-1程度の低い熱伝導率を示した。 【(EDO-TTF-I)2ClO4の熱電特性評価】すでに結晶構造や、相転移挙動を明らかにした(EDO-TTF-I)2ClO4の熱電特性評価を行った。まず研究分担者(吉野)による既報の方法により、電気抵抗率、ゼーベック係数、熱伝導率の同時測定を行ったところ、電気抵抗率、ゼーベック係数は半導体的挙動を示した。一方、熱伝導率は、高温領域で熱輻射の影響と考えられる熱伝導率の増大が観測され、室温で、2 W K-1 m-1であった。そこで、熱伝導率の参照となるマンガニン線の配置を変えた改良型試料ホルダーを用いて、熱電物性の測定を行った。電気抵抗率、ゼーベック係数については、従来型と改良型試料ホルダーで大差はなかった一方で、熱伝導率については、改良型では高温領域での熱伝導率の増大は観測されず、室温で、0.5-1 W K-1 m-1であった。無次元性能指数ZTは、最大で2.9×10-3と小さな値であったが、熱電特性評価における改良型試料ホルダーの有用性を確認できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、超分子相互作用や振電相互作用を制御することにより高い性能を有する有機熱電材料の開発を目的としている。また、物質開拓、構造解析、基礎物性評価を研究代表者の中野、熱電特性評価・解析を研究分担者の吉野が担当する。今年度は、新型コロナウィルス感染症の感染拡大に伴う研究活動の制限と今年度終盤の吉野の異動に伴う、熱電特性評価装置の移設が重なったことは、特に共同研究の障害となった。しかしながら、今年度後半に人的交流を進めながら、吉野が開発した熱電特性評価用試料ホルダーについて、熱伝導率の参照となるマンガニン線の配置を修正した改良型試料ホルダーを開発した。さらに、改良型試料ホルダーを用いることにより、高温領域で熱輻射の影響と考えられる熱伝導率の増大を抑えることができるという知見が得られた。今後、より精度良く、より簡便に熱電特性評価を行うための試料ホルダー開発の端緒を開いたと言える。物質開発の面では、様々なN-アルキル化DABCOとTCNQの新規ラジカルアニオン塩を開発し、それらの結晶構造、バンド構造、導電性を明らかにした。基本的には、TCNQ分子が1次元積層構造を形成していたが、アルキル基の違いによりDABCOの配列が異なっていた。特に、(HexDABCO)(TCNQ)2では、HexDABCOカチオン間にヘキシル基同士の接近が見られ、結晶中にイオン間の強い静電相互作用だけでなく、ヘキシル基間の弱い分散力を導入できたと考えている。このことは、(HexDABCO)(TCNQ)2が0.4 W K-1 m-1程度の低い室温熱伝導率を示すことと関連していると考えられる。本結果は、有機熱電材料の開発指針を確立する上で、重要な知見である。以上より、進捗状況はおおむね順調に進展していると判断される。
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Strategy for Future Research Activity |
超分子相互作用や振電相互作用の異なる分子を用いて、有機熱電材料の開発や設計指針を確立するため、以下の研究を推進する。 (1)p型有機熱電材料開発:ハロゲン結合供与部位としてヨウ素を導入した電子ドナー分子EDO-TTF-Iを用い、既知、新規ラジカルカチオン塩を作製する。既知の塩については、熱電物性を明らかにし、新規の塩については、結晶構造、バンド構造や導電性、磁性、光物性を明らかにする。以前、EDO-TTF-Iとポリシアノアニオンとの塩で、アニオン層に構造的乱れを有する塩を見出している。ポリシアノアニオンのような柔らかいアニオンが 結晶構造、熱電物性に及ぼす影響を明らかにする。 (2)n型有機熱電材料開発:N-アルキルDABCOカチオンと超分子結合受容部位としてシアノ基を有し、電子アクセプター分子であるTCNQ、F2TCNQ、F4TCNQから成るラジカルアニオン塩を作製し、結晶構造、バンド構造、基礎物性を明らかにする。(HexDABCO)(TCNQ)2が低い熱伝導率を示すことから、特に今年度は、より長いアルキル基を有するDABCOカチオンを用いた塩の開発に注力する。得られた塩の中で熱電材料として有望な塩について、熱電物性を明らかにする。 (3)熱電特性評価法の確立:(EDO-TTF-I)2ClO4における室温から液体窒素温度までの熱電特性評価実験では、熱伝導率の過大評価だけでなく、試料が脆いため割れやすく、度々測定を中止するという困難に直面した。これは、試料自体と試料ホルダーの熱膨張率の違いによるものと考えられる。温度変化による試料へのストレスを低減し、液体ヘリウムを用いた極低温までの熱電特性評価を可能とする試料ホルダーを開発する。
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Causes of Carryover |
【理由】新型コロナウィルス感染症の感染拡大に伴い、研究活動が制限されたため、当該年度に検討を予定していた有機合成に時間を要する目的化合物を、市販試薬をそのまま用いるか、市販試薬から短期間で合成可能な化合物に変更した。また、出張を伴う研究活動(実験、研究打合せ、研究成果発表)が制限され、当初予定していた旅費が未使用となった。さらに、異動に伴う研究室の引っ越し業務により、研究活動を中断することとなったため、未使用分を次年度以降の物品の購入、旅費等に充当することとした。
【使用計画】主として試料合成や物性評価を推進するための物品費、薬品、ガラス器具や電子部品等の実験器具、液体窒素や液体ヘリウムといった寒剤の購入に充当する。特に、ハロゲン結合供与部位としてヨウ素を導入した電子ドナー分子EDO-TTF-I、超分子結合受容部位としてシアノ基を有し、電子アクセプター分子であるF2TCNQをグラムスケールで合成し、結晶構造、物性評価を十分検討できるだけのイオンラジカル塩を作製する予定である。また、出張を伴う実験、研究打合せ、研究成果発表等の旅費に使用する。
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