2021 Fiscal Year Research-status Report
Synthesis of non-native phospholipids with an inverted polar headgroup by lipidmutation and their aggregation behavior
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21K05006
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Research Institution | The University of Tokushima |
Principal Investigator |
玉井 伸岳 徳島大学, 大学院社会産業理工学研究部(生物資源産業学域), 准教授 (00363135)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
松木 均 徳島大学, 大学院社会産業理工学研究部(生物資源産業学域), 教授 (40229448)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 非天然リン脂質 / リン脂質二重膜 / 高圧相挙動 / 示差走査熱量法 |
Outline of Annual Research Achievements |
生体膜の基本構造は、両親媒性分子であるリン脂質が水性環境下で自己会合して形成する二重膜状の分子集合体によって与えられる。生体膜を構成するリン脂質は、スフィンゴリン脂質を除けば、ほとんど全てがグリセロリン脂質に分類される。このことは、リン酸基、および二本の炭化水素鎖がグリセロール骨格にエステル結合した化学構造(PA構造)を共通して有していることを意味する。しかしこの共通性の生物学的あるいは化学的意義は全く不明である。こういった背景を踏まえ、本課題研究では、天然リン脂質の化学構造を部分的に改変した、いわば変異導入非天然リン脂質を合成し、その二重膜物性を調べることで、対比的に天然リン脂質分子の機能と特性を明確化することを主目的としている。 本年度の研究成果は、以下の3点である。 (1)本研究の先行研究として以前より進めてきた、アミド結合型非天然リン脂質の合成とその二重膜物性。 (2)当初に計画していた、リン酸基を一つ有する極性基転置リン脂質(P1-N型リン脂質)の類似体(リン酸基に二つのエチル基が結合した脂質)の合成。 (3)当初の計画には含まれていない新規非天然脂質の合成。 (1)に関しては、先行研究ということもあり、その成果は国内学会発表1件および国内学会欧文誌への投稿・掲載として報告・公表されている。(2)および(3)については、現時点では、広く公表できるほどまとまった成果が得られていないため、次年度には何らかの形で公表できるよう引き続き研究を進める予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
申請時に作成した本課題研究の計画において、当該年度は先行研究の成果を基盤として、新たに極性基転置リン脂質(P1-N型リン脂質)の合成すること、さらにその二重膜構造および熱力学特性に関する物性研究を進めることを当該年度の目的としている。このことを踏まえて当該年度の進捗状況を達成度に基づき判断すると、芳しいとはいえず、「やや遅れている」とした。詳細を簡単にまとめると以下のとおりである。 (1)先行研究成果(達成度9):アミド結合型非天然リン脂質の合成ならびにその二重膜物に関しては、純度の高い資料が十分量得られ、物性研究の結果も成果が得られ、かつそれらは学術論文の形で一般に報告されているので十分達成したと判断できる。 (2)P1-N型リン脂質の合成研究(達成度5):当初予定していたP1-N型リン脂質は得られておらず、その類似体であるジエチルP1-N型リン脂質のみ合成に成功した。ただし、その精製が非常に難しく、推定純度80%程度の試料しか得られなかった。 (3)P1-N型リン脂質の物性研究(達成度3):ジエチルP1-N型リン脂質二重膜の示差走査熱量測定を行ない、二重膜相転移温度とそれに伴うエンタルピー変化を決定できたが、高圧相図を含め、十分な熱力学的特性の決定には至っていない。 (4)予想外の成果:P1-N型リン脂質の合成を行なっている際に、当初の計画では想定していなかった副産物が得られた。この脂質は、本課題研究の中心的命題である、「天然リン脂質の化学的・生物学意義の探求」に有効に活用できる脂質であることを考慮し、二重膜物性評価の対象として新たに追加し、次年度以降の物性研究において本課題研究の目的に適った測定試料として用いることとした。
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Strategy for Future Research Activity |
本課題研究の中心的命題を踏まえ、当該年度の研究の進捗状況を勘案すると、申請時に立案した研究計画を多少修正する必要がある。また当該年度に行なった研究過程で、計画に沿った研究の遂行を妨げる幾つかの問題点が見つかったため、研究計画の修正にはその点を考慮する必要がある。以下にそれらの問題点と修正計画について簡単にまとめる。 (問題点)当初の計画では、現在得られたP1-N型リン脂質の類似体から、脱エチル基を行い、P1-N型リン脂質を合成する予定であった。しかし、好ましくない副反応が脱エチル基の反応の進行を著しく阻害するため、最終目的物であるP1-N型リン脂質を高収率で合成することが極めて困難である。加えて、高純度の試料を得るためには、合成物を徹底的に精製する必要があるが、現時点で可能な精製方法では純度80%程度の試料を得るのが限界である。 (修正案)ジエチルP1-N型リン脂質は当初の計画していた極性基転置リン脂質とは厳密には異なるものの、コリン基とリン酸基の配置が天然リン脂質の配置とは逆転していることから、当初の研究目的に適った合成リン脂質であると判断できる。このことを踏まえ、現在合成できているジエチルP1-N型リン脂質を用いて、高圧相図の作成や熱力学的特性の決定を中心的に進めることを計画している。それと並行して、計画通りのP1-N型リン脂質を得るための合成経路の再考および副産物として得られた計画にはない有用な合成脂質を用いた物性研究を進めることを計画している。
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Causes of Carryover |
理由:コロナ感染症の拡大への対策による影響が最も大きい。コロナ禍以前ほどは円滑な研究の進捗を見込めないことは想定していたが、大学のコロナ感染拡大防止の措置に伴い、学生への業務依頼が想定以上に少なくなったため、結果として、学生に支払う予定であった謝金がほぼ使用できなかったことが最も大きな要因である。また、研究費(その他)は主に学内研究施設の利用に充てる予定であったが、大学のコロナ感染拡大防止の措置のため、計画していたほどは施設利用の機会が少なかった。このことも、次年度使用額が生じる一因となった。 使用計画:今後もコロナ感染症の影響がしばらく続くとみられることから、次年度使用額をそのまま謝金として使用できる見込みは極めて低い。一方で、本年度の成果の一つとして、当初の研究計画では想定していなかった有用な副産物が得られたことから、次年度の研究計画において、これらの物性研究を遂行するためには、当初の予定より多くの費用が必要になると予想される。これらのことを勘案し、本年度生じた次年度使用額は、次年度の物品費と合わせて、想定外の副産物の物性研究に必要な消耗品の購入に充てる予定である。
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Research Products
(3 results)