2021 Fiscal Year Research-status Report
水俣湾及び埋立地の環境変動時における底質の化学変化に伴う再水銀汚染に関する検討
Project/Area Number |
21K05162
|
Research Institution | National Institute for Minamata Disease |
Principal Investigator |
松山 明人 国立水俣病総合研究センター, その他部局等, 室長 (00393463)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
矢野 真一郎 九州大学, 工学研究院, 教授 (80274489)
|
Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
|
Keywords | 水俣湾 / 底質 / 水銀 / 溶出 / メチル水銀 / 水環境変化 / 海洋微生物 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の対象となる水俣湾埋め立て地は、脱水された浚渫底質が、そのまま埋め立てられており、化学的な不溶化処理等は全く施されなかった。また埋め立て地の底部には、現在の処理工法では当然敷設されるはずの、汚染水の浸透防御シートの敷設も全く行われていない。従って、大規模地震等が水俣湾周辺に発生し、埋め立て地から埋設底質の一部が水俣湾内へ漏れ出すようなことが起きた場合、現在、浚渫残渣として、水俣湾海底に残されている水銀含有底質の存在と相まって、その際起きるであろうと予想される事柄が、現状として全く想定ができない。その意味で現状、水俣湾海底にある水銀含有底質及び、現在保存されている当時の浚渫底質を研究用試料として活用し、これら底質の初期物理、化学特性を踏まえた上で、急激な水質環境変化がこれら底質に負荷された場合の特性変化及び、その底質特性変化に由来する底質中水銀の挙動が、水俣湾及び水俣湾周辺の海洋環境に影響を及ぼす可能性があるのかについて水銀に焦点を当て実験的に検討する。 上記考えに基づき、令和3年度は先ず第一段階として予備的検討を含め実験系の確立を目標に研究に取り組んだ。即ち、室内モデル実験を円滑に行うため、ハード的な実験系の適切な組み立てとインキュベータの導入だけでなく、実験を具体的に行うための実験条件の確定を第1として研究を進めた。その結果、チッソ、空気バブリング及びグルコースの追添加により、ORP(酸化還元電位)をインディケータとして、人為的に実験系全体を還元状態に移行させある一定期間その状態を維持する事に成功した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
水俣湾に堆積している底質および海水中の夏期及び冬期における季節的なDO(溶存酸素濃度)ORP(酸化還元電位)の変動について把握した。さらに水俣湾より底質を採取し、室内バッチモデルによる、インキュベーション実験を行った。今年度はチッソ及び空気バブリングをそれぞれ行ったモデル系内のORP変化が、底質からの水銀溶出に対してどのような影響を与えるのかについて検討した。結果として、バブリングだけでなくグルコースを添加することにより、効率的にモデル環境中のORPを低下させることが可能であり、最大で-300mv程度までORPを低下させることができた。海水中のORP低下と連動して、同時に底質からの水銀溶出が始まった。最大溶存水銀濃度では通常水俣湾溶存態総水銀濃度のおよそ2000倍、総水銀に対するメチル水銀の比率は95%以上に達した。一方、空気バブリングでグルコースを添加しても、ほとんどORPの変動はなく、底質からの水銀の溶出は認められなかった。
|
Strategy for Future Research Activity |
令和4年度では、昨年度実施したモデル実験系をさらに拡大し、測定項目も追加してモデル実験系としてのルーティン化を行う。特に昨年度はカーボンソースとしてグルコースを添加したが、グルコース内のカーボン分の消長が把握されていなかったため、時系列的な溶存態メチル水銀の生成の動きとの関係が把握できていなかった。そこで今年度はDO,ORPだけでなくTOC、DOCも追加計測する。さらにモデル実験系で溶存態メチル水銀が時系列で生成した際の海水を別途採取し、海水中の微生物に関するゲノム解析を行い、どのような微生物がメチル水銀生成に影響を及ぼしているのかについて検討を予定する。また先行実験に位置づけで、どのいうな処理を行えばモデル系内のORPを人為的にコントロール出来るのかについても検討を進めたい。
|
Causes of Carryover |
2022年度(令和4年度)の7月に開催予定の国際水銀会議がコロナ禍の影響もあり大幅に規模が縮小された。当初の計画では本国際会議に研究成果の一部を発表する予定であったが、今回の国際会議の規模が大幅に縮小されたこともあり、次回2024年に開催される国際水銀会議に、4年間の研究成果をまとめて発表することとした。その結果、当初の研究計画を全体的に見直し、ある程度発表までに時間的余裕ができたことから、基礎的な知見の取得も含めて、研究の基礎から固めて不備がないように実験を進めることとした。本格的な室内モデル実験と現場観測も含めた研究活動は令和4年度から本格開始する。したがって、令和4年度の支出予定であった海外渡航費用等は本研究の最終計画年度である2024年まで繰り延べることとを予定している。
|
Remarks |
令和三年度に行った研究成果の一部が、今年度(令和4年)夏期頃に発刊される当国立水俣病総合研究センター年報に掲載される予定。この年報をPDF化し、ウェブサイトに掲載される。
|
Research Products
(1 results)