2022 Fiscal Year Research-status Report
清酒醸造における低温長期の並行複発酵を可能とする、緩慢な糖生成のメカニズムの解明
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21K05460
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Research Institution | Tokyo University of Agriculture |
Principal Investigator |
徳岡 昌文 東京農業大学, 応用生物科学部, 教授 (30442544)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | オリゴ糖 / 清酒 / 発酵 / 糖化 / 糖転移 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度、Pichia pastorisによるAgdAとAgdB発現系を構築し、清酒に含まれるオリゴ糖について、in vitroでの合成と分解について検討した。これまでに得られているAgdAとAgdBの遺伝子破壊株の清酒オリゴ糖組成の特徴と併せ、清酒中のオリゴ糖は、a)AgdAにより合成される連続したα-1,6結合を持つオリゴ糖(イソマルトース型分岐など)、b)タカアミラーゼとグルコアミラーゼによる米澱粉の分解による残渣のオリゴ糖(隣接型分岐を持つオリゴ糖)、c)AgdBにより合成されるα-1,2もしくはα-1,3結合を有するオリゴ糖、の3つの類型に分けられることが示唆された。また、11日目の清酒醪を限外ろ過することで調製した清酒オリゴ糖を組換えAgdAで消化したところ、a)のタイプのオリゴ糖は分解される一方で、隣接型分岐を持つオリゴ糖が分解されにくいことが改めて確認された。 一方、米麹での遺伝子発現が高いことが確認されたAgdEは遺伝子破壊株をホモカリオン株として取得できず、致死遺伝子と予想された。詳細に塩基配列を調べたところ、酵母からヒトまでに保存されている小胞体プロセッシング酵素のglucosidase IIのホモログである可能性が新たに示され、AgdEは清酒中でのオリゴ糖生成・分解との関わりはないと予想された。AgdAとAgdBの二重遺伝子破壊麹菌株の清酒では、上記のa)とc)が検出されないものの、b)のオリゴ糖は検出されたため、清酒醪におけるオリゴ糖生成に関わるα-グルコシダーゼはAgdAとAgdBと考えらえた。その他、隣接型分岐構造は米澱粉だけでなく、様々な植物由来澱粉にも存在することを確認し、定量的な解析から、隣接型分岐は全体の分岐の少なくとも1/100程度の割合で存在すると推定された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度までに明らかにしたAgdAとAgdBの遺伝子破壊株における清酒のオリゴ糖組成のデータに加えて、本年度実施したAgdAとAgdBの二重遺伝子破壊株の清酒オリゴ糖組成の解析、さらにAgdAとAgdBの組換え酵素を利用した生成及び消化試験から、清酒に残存するオリゴ糖は、清酒醪の糖化工程における糖転移産物と澱粉分解残渣の2つの生成要因があることが分かり、予定通り、本年度までに、清酒オリゴ糖の生成メカニズムの解明が概ね達成できた。また、隣接型分岐に関する研究が進展し、澱粉構造に隣接型分岐が存在することを証明し、存在割合を含めて報告することができた。これらを踏まえ、進捗状況は順調であるとした。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度においては、緩慢な糖生成に対する清酒中オリゴ糖の影響について、結論を得るための研究を進める。研究当初は、清酒中のオリゴ糖の生成メカニズムは、糖転移の影響もしくは澱粉の分解残渣のどちらか一方と考えていたが、これまでの結果から、両者が関与していることが明らかとなった。したがって、当初予定していた遺伝子破壊や高発現のアプローチでは結論が得られない。そこで次年度は、醪後半におけるグルコース供給を担うオリゴ糖を、各種酵素の阻害剤をもろみに添加することで明らかにする戦略で実験を進める。具体的には、α-グルコシダーゼとグルコアミラーゼの各酵素阻害剤を清酒醪に添加することで、無添加醪でのグルコース生成量に相当する増加が観察されるオリゴ糖を明らかにする。この結果とこれまでの結果と併せ、本課題が目指す、緩慢な糖生成と清酒中オリゴ糖の関連を明らかにできると考えている。
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Causes of Carryover |
消耗品費が予定より抑えられたため残額が発生した。
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