2021 Fiscal Year Research-status Report
ニホンジカの高密度化に伴う植生衰退がツキノワグマの採餌生態や出没に及ぼす影響
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21K05672
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Research Institution | University of Hyogo |
Principal Investigator |
藤木 大介 兵庫県立大学, 自然・環境科学研究所, 准教授 (30435896)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | ツキノワグマ / 糞分析 / DNAメタバーコーディング / 下層植生衰退 / ニホンジカ |
Outline of Annual Research Achievements |
近年、ツキノワグマ(以下、クマ)の人里への出没による人との軋轢が日本各地で増加しており、社会問題化している。これまでクマの人里への出没動向は主にブナ科樹木の堅果(ドングリ)の豊凶に着目して研究が進められてきた。一方、クマの生息地域の多くで、近年は高密度化したニホンジカ(以下、シカ)による森林植生の衰退が広がっており、このようなシカによる生態系改変が、森林域においてクマの利用可能な餌資源を大きく減少させている可能性がある。北米では高密度化したシカの影響によって森林の下層植生が消失した結果、アメリカクロクマが地域絶滅した事例も報告されている。そこで、絶滅が危惧される北近畿西側地域個体群のクマを対象に、シカによる森林植生の衰退がクマの餌資源利用に及ぼしている影響を明らかにすることを目的に以下の調査を実施した。 兵庫県豊岡市但東町を中心に、4月~12月初旬にかけて、定期的に山系を踏査し、クマの糞塊を約90サンプル収集した。収集した糞塊は冷凍保存した。また、そのうちの約20糞塊を対象にDNAメタバーコーディング解析を実施することで、糞の内容物について種レベルで構成を把握することを試みた。これまでの予備解析によって、他の地域個体群に比べて、本調査地域のクマは、植物栄養器官(特にササ)への依存度が低いこと、無脊椎動物やシカへの依存度が高そうであることなどの結果が得られつつある。このような結果は、シカによる森林の下層植生の衰退の影響を反映しているものと推測される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では以下の2つの研究課題を設定している。1)シカの高密度化とそれに伴う下層植生の衰退がクマの採餌生態に及ぼす影響の解明。2)下層植生の衰退と人里へのクマの出没動向の関係。研究初年度である令和3年度は主に1)の課題に取り組み、分析対象であるクマの糞塊を約90サンプル収集することができた。1)の課題の進展には、クマの糞塊を十分なサンプル数収集できるかが鍵となるが、研究初年度において十分なサンプル数のクマの糞塊を収集できる方法論を確立できたといえる。また、クマの糞の内容物を対象にDNAメタバーコーディング解析を実施した結果、植物種並びに動物種ともに、種レベルで糞の内容物を同定できることを確認した。以上のことから、1)の課題達成のための技術的な問題はクリアできたと判断している。
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Strategy for Future Research Activity |
クマの採食物は、ドングリの結実の豊凶の影響などを受けて、年変動するため、採食物把握のためのクマの糞塊の収集は継続的に実施する。また、初年度の収集した糞の内容物の分析も定量比法を用いて本解析を進めていく。調査対象地域は、ニホンジカの影響により落葉広葉樹林の下層植生が広域的に衰退している。このような下層植生の衰退とクマの人里への出没との関係を明らかにするために、兵庫県全域を対象とした広域モニタリング調査を過去4回(2006年、2010年、2014年、2018年)実施してきた。本年度は5回目となる再調査を実施することで、過去16年間の下層植生の変化の長期観測データを収集するこを目指す。兵庫県では、住民から市町に寄せられたクマの出没情報が、2001年以降はデータベースとして蓄積されている。出没情報は、情報が得られた年月日に加えて座標情報も記録されていることから、時空間的な分析が可能となっている。そこで、これらのデータを地理情報システム上で統合し、統計モデルを用いた解析を実施することで、過去16年間の出没情報の時空間的な変動が下層植生の衰退とどのような地理的関連性があるかを明らかにする。また、その際、シカの生息密度や捕獲密度の時空間的変動との関係性についても分析する
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Causes of Carryover |
年度末に日本森林学会大会と日本生態学会大会への現地参加を予定していたが、新型コロナの影響により大会が完全WEB開催となったため、学会現地参加のために予定していた旅費の使用ができなかった。2022年度も新型コロナの影響で学会等の開催が不透明であることから、状況を見据えながら、繰り越し分については、新たに執筆中の投稿論文の英文校閲費用への使用等への充当を検討してきたい。
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Research Products
(2 results)