2021 Fiscal Year Research-status Report
Elucidation of molecular basis underlying stress-induced iron dysregulation and its behavioral relevence
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21K06576
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Research Institution | Hyogo Medical University |
Principal Investigator |
北岡 志保 兵庫医科大学, 医学部, 教授 (00545246)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | ストレス / 炎症 / 鉄 |
Outline of Annual Research Achievements |
社会や環境から受けるストレスは情動変容や認知機能の低下を誘導し、精神疾患の危険因子である。これに合致し、ストレスを繰り返し与えられた動物においても行動変化や認知機能に低下が観察される。そのため、このような動物を解析することにより、ストレスがどのように脳機能を変化させるのかを明らかにし、治療薬の開発に繋げることを目指す。また、ストレスは精神疾患以外にも、循環器疾患や糖尿病などの危険因子でもあり、脳以外の組織も解析することで各種疾患の病態解明に繋がることが期待される。 ストレスを繰り返し与えた動物の血液を調べ、赤血球が減少すること、つまりストレスが貧血を誘導することがわかった。貧血の原因はいくつか存在するため、ストレスが貧血を誘導する原因を精査したところ、鉄欠乏に起因することが明らかとなった。ウイルスの感染などにより炎症が生じると鉄欠乏性貧血となることが知られている。この現象は炎症性貧血と呼ばれ、炎症により肝臓でヘプシジンが作られることで肝臓から血液への鉄の移動が妨げられ、鉄欠乏性貧血となる。そこで、肝臓のヘプシジンや鉄の量を調べたが、ストレスは肝臓でのヘプシジンや鉄量を変化させなかった。これらの結果は、ストレスによる鉄欠乏性貧血の誘導には未知の機構が関与することが示唆された。現時点で、ストレスによる鉄欠乏性貧血にインターロイキン(IL)-6が関与することも明らかにしており、ストレスによる鉄欠乏性貧血に炎症が関与する可能性がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
令和3年度はストレスが貧血を誘導する原因を同定すること、また、ストレスにより鉄の含有量が変化する組織を同定することを主たる目的としていた。 令和3年4月に兵庫医科大学に異動し、研究環境が変化したが、前職で用いていたストレスモデルを新たに立ち上げた。 ストレスは交感神経系や神経内分泌系を活性化することから、交感神経系の働きを遮断する薬物を動物に投与したり、神経内分泌系を構成する副腎の摘出実験などを行った。しかしながら、これらの実験ではストレスによる鉄欠乏性貧血を抑えることができなかった。そこで、ストレスによる鉄欠乏性貧血に炎症が関与するとの仮説を立て、炎症に関与する分子の遺伝子欠損マウスを用いた実験を行った。Toll様受容体やインターロイキン(IL)-1受容体タイプⅠ(IL-1RI)を欠損した動物ではストレスにより鉄欠乏性貧血が誘導された一方、IL-6を欠損した動物ではストレスにより鉄欠乏性貧血が誘導された。これらの結果から、ストレスによる鉄欠乏性貧血の誘導にIL-6が関与することが明らかとなった。 また、体内の鉄の調節に関与する各組織中の鉄量を測定した。ストレスにより肝臓の鉄量は変化せず、褐色脂肪組織の鉄量が増加した。そこで、褐色脂肪組織における鉄量の増加がストレスによる鉄欠乏性貧血に関与するかを検証するため、褐色脂肪組織を摘出した動物を作出した。褐色脂肪組織を摘出した動物でもストレスによる鉄欠乏性貧血が生じたことから、褐色脂肪組織の関与は否定された。
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Strategy for Future Research Activity |
ストレスによる鉄欠乏性貧血にIL-6が関与することから、IL-6が作られる組織や細胞種を特定する。また、IL-6受容体について、定量的RT-PCRや蛍光in situハイブリダイゼーション法、免疫染色などを行い、受容体が発現する組織や細胞種を同定する。同定した組織・細胞種特異的な遺伝子欠損マウスを作出し、ストレスによる鉄代謝異常、行動変化への影響を調べる。 ストレスにより鉄量が変化する組織を特定できていないため、未測定の組織を含め再検討する。変化を検出した組織で、鉄排出トランスポーターであるフェロポーチン、鉄結合タンパク質であるフェリチン、鉄取り込みに関与するトランスフェリン受容体、鉄制御タンパク質であるIRP1など鉄代謝制御関連タンパク質の生化学的解析を行う。 慢性ストレスは鉄欠乏性貧血を誘導することから鉄剤であるフェジンの投与による鉄補充を行ったところ、予想に反し、慢性ストレスによる抑うつ行動が増悪する結果を得ている。また、鉄補充は慢性ストレスによる赤血球の減少を改善せず、血清鉄が増加しなかった。これらの結果は、慢性ストレスによる鉄代謝異常が脳機能変化に関与する可能性を示す。そこで、神経活動をモニターするため、Arcやc-Fosのレポーターマウスにストレスを負荷し、脳の透明化を経て全脳マッピングを行う。ストレスに依存した神経活動の変化や鉄剤投与に依存した神経活動の変化を同定し、鉄剤投与による抑うつ 行動の増悪を担う神経核や神経回路を絞り込む。
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Research Products
(6 results)