2022 Fiscal Year Research-status Report
病原性連鎖球菌に由来する細胞傷害因子の構造機能解析と感染制御への応用
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21K06655
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Research Institution | Suzuka University of Medical Science |
Principal Investigator |
大倉 一人 鈴鹿医療科学大学, 薬学部, 教授 (00242850)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
田端 厚之 徳島大学, 大学院社会産業理工学研究部(生物資源産業学域), 准教授 (10432767)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 生体膜 / 感染症 / 細胞溶解毒素 |
Outline of Annual Research Achievements |
1)ストレプトリジンS(SLS)はAGSに属するβ溶血性菌株が産生する病原因子であり、宿主細胞を障害する。Streptococcus anginosus subsp. anginosus(SAA)のSLS依存的細胞溶解活性と血流との関係を検証した。β-溶血性SAAのSLS依存性溶血活性はヒト血清アルブミン(HSA)によって安定化された。本研究はβ-溶血性SAAが分泌するSLSだけでなく、他のSLS産生レンサ球菌由来の毒素の安定化を示唆している。この結果はSLS産生レンサ球菌が血流へ移行する際のリスクに関する知見を提供する。 2)ヒト口腔内のミティス群レンサ球菌(MGS)のS.pseudopneumoniae(SPpn)からリパーゼドメインやコレステロール依存性細胞溶解毒素由来ドメインを有する新規分子をMitilectin(MLC)と命名し検証した。MLC遺伝子はSPpnだけでなくS.pneumoniaeやS.mitis(SM)でも保有株が確認された。SPpnおよびSMのMLC産生株では、MLC遺伝子の翻訳産物が分泌型と菌体表面結合型で存在すること、および、MLC組換え体はヒト細胞(赤血球、株細胞)に対して結合性を示すが障害性を示さないことを確認した。MLCは宿主細胞への菌体の接着性に寄与し、結合性は分子内のタンデム型レクチンドメイン構造に依存した。 3)終末糖化産物(AGE)モデル(BSA)のUTX-51誘導体併用時の熱中性子による崩壊を解析した。UTX-51誘導体に212個(UTX-42)、18個(UTX-44)、111個(UTX-47)、249個(UTX-50)、134個(UTX-51)の配座を確認した。UTX-42ではBSAとの水素結合が確認できなかったが、他誘導体がBSAと水素結合する際のエネルギーは-4.902(UTX-44)、-1.171(UTX-47)、-2.287(UTX-50)、-8.409kcal/mol(UTX-51)であり、UTX-51が強固にBSAと相互作用し熱中性子照射によりBSAがUTX-51濃度依存的に破壊された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1)アンギノーサス群レンサ球菌(AGS)はヒト口腔に存在する日和見菌だが病原性の詳細は明らかでない。歯肉溝に存在するレンサ球菌は歯周病や歯科治療により簡単に血流に移行する。ストレプトリジンS(SLS)はAGSに属するβ溶血性菌株が産生する病原因子で宿主細胞の機能を抑制する。Streptococcus anginosus subsp. anginosus(SAA)のSLS依存的細胞溶解活性と血流との関係を検証した。β-溶血性SAAの培養上清中のSLSは濃度依存的に溶血活性を示し、ヒト血清アルブミン(HSA)により安定化された。HSAはヒト血漿に多く含まれるためSLS産生レンサ球菌が血流を介し感染するメカニズム解明に繋がる。 2)ミティス群レンサ球菌(MGS)に属すS.pseudopneumoniae(SPpn)においてリパーゼドメインやコレステロール依存性細胞溶解毒素に由来するドメインを有する新規分子をMitilectin(MLC)と命名し解析した。MLC遺伝子翻訳産物を確認しMLC遺伝子ノックアウト株、抗MLC抗血清を得た。MLCのヒト赤血球溶血活性、リパーゼ活性、ヒト株化細胞との相互作用を検討した。MLC遺伝子はS.pneumoniaeやS.mitis(SM)でも保有株が確認された。SPpnやSMのMLC産生株ではMLC遺伝子の翻訳産物が分泌型と菌体表面結合型で存在し、MLC組換え体はヒト細胞に対して結合するが障害を示さないことを確認した。MLCは宿主細胞への菌体接着に寄与し、結合性は分子内タンデム型レクチンドメイン構造に依存した。 3) 終末糖化産物(AGE)モデル(BSA)の熱中性子線による崩壊へのUTX-51誘導体の効果を検証した。UTX-42では配座エネルギー依存的に高疎水性度を確認した。UTX-44ではdGW値は2相性を示し高エネルギー配座群で高疎水性度を示した。UTX-47ではdGW値はエネルギー状態によらず一定であった(平均: -105.393 kJ/mol)。UTX-50ではエネルギー状態に依存しないdGW値のバラツキを確認した。UTX-51には特に疎水性度の高い2群が存在した。
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Strategy for Future Research Activity |
ストレプトリジンS(SLS)は、劇症型レンサ球菌感染症の原因菌として臨床的にも重要視されているA群レンサ球菌が産生するペプチド性の溶血毒素であり、翻訳後修飾により分子内にチアゾール環やオキサゾール環などのヘテロ五員環構造を形成することが細胞傷害活性の発揮に必須であるとされている特徴的な毒素分子である。我々はこれまでに、ヒト口腔内常在細菌叢を構成する日和見病原性レンサ球菌群であるアンギノーサス群レンサ球菌の中にも、 SLSを産生することにより明瞭な溶血性と細胞傷害性を示す株の存在を明らかにしている。興味深いことに、A群レンサ球菌が産生するSLSとアンギノーサス群レンサ球菌が産生するSLSは分子C末側のアミノ酸配列に多様性が確認されるものの、培養液中に分泌された遊離型のSLSについても血中の主要なタンパク質成分である血清アルブミンの存在条件下では安定化され、赤血球や培養細胞に対する傷害活性が顕著に発揮されることを見出した。この特性に基づいて、SLSを産生する口腔内常在性のアンギノーサス群レンサ球菌は、歯周病などの口腔内病変部から血中に移行した場合に異所性感染とSLS依存的な細胞傷害性を惹起することが想定され、SLSを産生するヒト口腔常在性日和見レンサ球菌が示す病原性の新たなメカニズムを検討する上で重要な情報であると考えている。本課題では、SLSと血清アルブミンとの相互作用解析に関するin silicoでの検討も含め、血清アルブミンによるSLSの活性保護効果に基づいたSLS依存的な口腔常在性日和見レンサ球菌の病原性に関する詳細な検討を行う。特に、血液由来成分の添加条件でβ溶血性SAAを培養し、得られた培養上清におけるSLS依存的な溶血活性/細胞傷害性を検討する。また、HSAが及ぼすSLSコード遺伝子の転写発現への影響を逆転写定量PCR(RT-qPCR)で検討する。
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Causes of Carryover |
測定機器、構造解析端末の保守部品が、世界的な半導体不足の煽りをうけ欠品のため繰り越しが生じた。順次手配を進めて行く予定である。
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Research Products
(7 results)
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[Journal Article] Dual functions of discoidinolysin, a cholesterol-dependent cytolysin with N-terminal discoidin domain produced from Streptococcus mitis strain Nm-76.2022
Author(s)
Tabata A, Matsumoto A, Fujimoto A, Ohkura K, Ikeda T, Oda H, Yokohata S, Kobayashi M, Tomoyasu T, Takao A, Ohkuni H, Nagamune H.
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Journal Title
J Oral Microbiol.
Volume: 14
Pages: 2105013
DOI
Peer Reviewed
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