2021 Fiscal Year Research-status Report
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21K07074
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
角川 清和 国立研究開発法人理化学研究所, 生命医科学研究センター, 研究員 (80391910)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | T細胞分化 / Themis / 胸腺 |
Outline of Annual Research Achievements |
T細胞特異的に発現しているThemisの遺伝子座はヒトのセリアック病、アトピー性皮膚炎、潰瘍性大腸炎、関節リウマチなどの自己免疫疾患との関連が示唆されている。また、Themisノックアウトマウスでは成熟T細胞が激減しており、ThemisがT細胞の分化成熟や機能に重要な働きをしていることは明らかであるが、その作用機序は明らかになっていない。我々はThemisの核での働きに焦点を当て研究を進めている。 内因性の核移行シグナルを改変する事、または外来性の核移行シグナルを付加することによってそれぞれ細胞質にのみThemisが存在する変異マウス(THc)と核にのみThemisが存在する変異マウス(THn)を作成した。これらのマウスではT細胞の成熟が阻害されていたことよりThemisは細胞質と核の両方に存在する必要があることが分かった。 また、THcマウスとTHnマウスの交配により作成したTHc/nマウスでは核と細胞質にThemisが存在するが互いに他方の分画には移動できない。このマウスでもT細胞の分化は阻害されておりThemisの核と細胞質の相互移動が重要な役割をしていることが分かった。 以上の結果からThemisタンパクの細胞質―核間の移動がその機能に重要であると考え、これを検証するためにThemisにヒトのエストロゲン受容体の一部であるERT2を付加したノックインマウスを作成した。 このマウスでは理論上、ERT2-Themis結合タンパクは細胞質にとどまるがタモキシフェンの投与により核に移行する。タモキシフェン投与前では成熟T細胞の数が野生型と比べ減少していたが投与後はThemisタンパクが核へ移動しさらにT細胞の数が増加した。この結果からThemisタンパクの細胞質から核への移行がその活性に重要であることが分かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
Themisタンパクが細胞質から核へ移動するのが重要であるのか検討するためERT2-Themis融合遺伝子をノックインしたマウスを樹立した(THet2マウス)。現在C57BL/6純系への戻し交配を行うと同時に解析を進めている。理論上、ERT2をThemisに結合することにより、Themisタンパクは常に細胞質にとどまり核には存在しないが、タモキシフェンの投与によりThemisタンパクを細胞質から核へ移動させることができる。THet2マウスの胸腺細胞を用い、タモキシフェンの経口投与前後でThemisタンパクが細胞質から核へ移行することを確認した。さらに投与前では末梢血中のT細胞数が減少していたがタモキシフェンの投与により回復した。このことは少なくともThemisが細胞質から核へ移動することがその機能に重要であることを示唆している。何がThemisを核へ連れていくのか、あるいは何にThemisが核に連れていかれるのかを質量分析で突き止めるための準備を行っている。 さらに我々はT細胞分化に重要な転写制御因子とThemisの会合を同定している。これはThemisが核で転写を調節している可能性を示唆しており、Themisに対するChIP-seqを行う準備を進めている。これには免疫沈降のためのTy1タグをThemisの遺伝子座にノックインしたマウスの樹立も含まれる。また、この転写因子のゲノムへの結合に与えるThemisの影響を調べるためこの転写因子のChIP-seqをThemisノックアウトマウスの胸腺を用いて行い、野生型と比較する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
まず、胸腺細胞を用い、抗CD3抗体でのT細胞受容体の刺激の有無で核のThemis, 細胞質のThemisに結合するタンパク質をThemisを免疫沈降後、質量分析により網羅的に調べる。質量分析による解析には多量の抽出物が必要なため細胞株を用いることも想定している。さらに最近ビオチン化による近接タンパクの同定法が報告されておりこれを用いることも考えている。免疫沈降と比較して、短時間の弱い結合/接近も検出できる利点がある。具体的にはTurboID/AirIDなどのビオチン化タンパクをThemisに結合したものを2B4などのT細胞株に導入しTCR刺激前後の抽出物をストレプトアビジン磁気ビーズにより生成する。この操作によりビオチン化されたタンパク、つまりThemisに近接したタンパク質が抽出されこれを質量分析で同定する。 また、Themisの核での働きを明らかにするため、会合している転写因子に対するChIP-seqをThemisノックアウトマウスの胸腺細胞を用いて行う。野生型の胸腺での結果と比較し差がないか調べる。また、Themisに対するChIP-seqを行いThemisの転写制御因子としての可能性を検討する。Themisに対する、ChIP用の抗体を検討すると同時にTy1タグをThemisのN末端にノックインしたマウスを樹立し、T細胞分化に影響がないか確認したのちChIP-seqを試みる。
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Causes of Carryover |
当初、Themisに対するChIP-seqを予定していたがこれに適する抗体の特定に手間取りこの実験が進んでいない。 また、コロナによる渡航制限で旅費としての消化ができなかったため次年度に繰り越さざるを得ない。
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