2021 Fiscal Year Research-status Report
細胞外基質による線維細胞のmiR-21発現制御に着目した肺線維症の新規治療法開発
Project/Area Number |
21K08204
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Research Institution | The University of Tokushima |
Principal Investigator |
佐藤 正大 徳島大学, 病院, 講師 (80530899)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 線維細胞 / fibrocyte / 細胞外基質 / miR-21 |
Outline of Annual Research Achievements |
特発性肺線維症 (IPF) は進行性の肺機能低下を特徴とする難病指定疾患であり、新たな治療標的の発見が急務である。線維細胞はIPFの新たな治療標的候補として注目されているが、その線維化促進作用には未だ不明な点が多い。近年、様々なマイクロRNA (miRNA) が組織の線維化に関わる可能性が報告されているが、線維細胞由来miRNAの肺線維症における意義については充分な検討がない。我々は予備実験の結果、線維化組織における異常な細胞外基質(ECM)の構築が、線維細胞のmiRNA発現を変化させる可能性を見出した。本研究は、線維化肺組織におけるECMが、線維細胞のmiRNA発現を変化させて更なる線維化進行に寄与するという仮説を立て、その制御による新たな治療戦略の開発を目的としている。 令和3年度の目的として、一つ目に「線維細胞のmiR-21発現に影響を与える線維化肺組織中ECM成分の同定」を掲げた。miR-21はIPFの肺組織で高発現されており、コラーゲンなどのECMの分泌を促すことで線維化促進に働くmiRNAとして報告されている。まず、ラット肺由来線維細胞を、幾つかの肺組織由来とされるECM成分で刺激することでmiR-21発現に与える影響を検討した。その結果、ペリオスチン、フィブロネクチン、コラーゲンは影響を与えなかったが、ヒアルロン酸は線維細胞のmiR-21発現を上昇させた。二つ目に「線維化肺組織の弾性が線維細胞のmiRNA発現に与える影響の検討」を掲げた。この検討において、通常の硬性培養皿上での培養は、柔らかい細胞培養用ハイドロゲル上での培養と比較して、線維細胞のmiR-21発現を上昇させた。 本研究により、線維細胞は、線維化肺組織内で構築された異常なECM(特にヒアルロン酸)や、それによる組織弾性の変化の影響を受けて、miR-21の発現量を変化させている可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
令和3年度の目標として掲げた上記2計画に関しては、検討が進んでおり、おおむね順調に経過していると考えられる。 令和4年度以降の目標としては、以下の2計画を掲げている。①TGF-β1が線維細胞のmiRNA発現に与える影響の検討と②ラット肺線維症モデルを用いた治療標的候補ECM成分阻害効果の検討、の2つである。①についてはリコンビナントTGF-β1を用いたin vitro実験に既に着手しており、既に一定の成果があがっている。②については令和3年度の検討結果に従い、ヒアルロン酸の受容体となりえるCD44中和抗体を用いた検討を試みている。線維細胞に対してCD44中和抗体を投与し、miR-21の発現量を検討するというin vitroでの検討は既に行われており、一定の成果があがっている。 令和3~5年度まで、3年間を通じて行うことを予定している計画としては、以下の2計画を掲げている。①ヒト気管支肺胞洗浄液中線維細胞のmiR-21発現量と臨床情報との関連性の検討と②臨床検体を用いた治療標的候補ECM成分の疾患毎差異の検討、である。いずれの計画も、十分な臨床検体の集積が必要である。①に関しては、比較的検体を集積しやすいため、解析を初めており、既に一定の成果があがっている。②に関しては組織標本が必要となるため、引き続き検体の集積を試みているが、症例の十分な集積が困難な可能性もあり、今後、条件の検討が必要である。 以上より、現時点での総合評価としては、概ね進捗は順調であると判断している。
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Strategy for Future Research Activity |
令和4年度以降の研究目標の一つである、「TGF-β1が線維細胞のmiRNA発現に与える影響の検討」については、ヒト線維細胞、マウス肺由来線維細胞を用いたin vitroによる検討で、一定の成果があがっている。具体的には、ヒトリコンビナントTGF-β1の投与により、用量依存性に線維細胞のmiR-21発現が増加することを確認できている。今後、TGF-β受容体や、TGF-βシグナル経路の下流因子に与える影響についても検討予定である。同年度のもう一つの研究目標である「ラット肺線維症モデルを用いた治療標的候補ECM成分阻害効果の検討」については、CD44中和抗体を用いた過去のin vivo実験に関する既報告を参考にしつつ、条件を検討中である。 令和3~5年度まで、3年間を通じて行うことを予定している計画の一つである「ヒト気管支肺胞洗浄液中線維細胞のmiR-21発現量と臨床情報との関連性の検討」については、既に線維性間質性肺疾患を有する患者由来の線維細胞では、その他の疾患患者由来のものと比較してmiR-21発現量が高いことを見出している。今後、肺機能検査結果や、血清マーカー、抗線維化薬への治療反応性などとの関連について、引き続き情報集積を行う予定である。もう一つの計画である「臨床検体を用いた治療標的候補ECM成分の疾患毎差異の検討」については、症例の集積に努めているが、十分な検体集積が困難な可能性もあり、胸腔鏡下肺生検検体のみならず、他の生検検体を用いることで代替が可能かどうかを検討中である。
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