2022 Fiscal Year Research-status Report
エンハンサー解析手法を用いた大腸癌リンパ節転移の有無による原発巣の差異の解明
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21K08738
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Research Institution | Yokohama City University |
Principal Investigator |
渡邉 純 横浜市立大学, 附属市民総合医療センター, 准教授 (40616075)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
村川 泰裕 国立研究開発法人理化学研究所, 生命医科学研究センター, チームリーダー (50765469)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | エンハンサー / CAGEとRNA-seq |
Outline of Annual Research Achievements |
研究の目的は、大腸癌のリンパ節転移の分子生物学的なメカニズムを解き明かすことである。大腸癌のリンパ節への転移能力は多様性があり、そのメカニズムは十分に解明されていない。大腸癌のリンパ節転移のメカニズムが解明され、術前に高精度なリンパ節転移の診断ができれば、真に追加切除が必要な症例を選択することができ、過剰な治療を防ぎ、患者の負担を軽減し、生活の質の向上や医療費の削減につながる可能性がある。つまり、大腸癌の治療戦略を大きく変更する可能性がある。 このメカニズムを解明するための手順を概説する。 まずは横浜市立大学から手術検体を受け取ります。この検体は、6種類の臓器から得られた臨床癌検体で、臨床情報と紐付いています。検体は癌部と、同じ患者 由来の腫瘍と隣接した正常部位があれば採用しております。 まずは検体のRNAを抽出します。その後、CAGEとRNA-seqといった方法で遺伝子が転写されるスタート地点にあたる転写開始地点や、遺伝子の転写を制御するエンハンサーに関する情報を得ます。CAGEとRNA-seqから得られたデータを統合解析して、ゲノム領域でのリンパ節転移のメカニズムにせまります。癌部と正常部位の比較や、他の消化器癌との比較を横断的に行うことで大腸癌に特異的に発現する遺伝子やエンハンサーを同定する。 さらに、臨床情報と統合し、大腸癌の中てもリンハ節転移陽性の症例に特異的に発現するRNA分子を網羅的に検索し、大腸癌のリンハ節転移に関わる転写ネッ トワークを解明る。 多岐にわたる消化器領域の実臨床検体を使用したCAGEはこれまでに報告はなく、そこから検出された物質は非常に意義深いものとなる。それをRNA-seqにより遺伝子情報を得ることで、さらに重要性が深まる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
大腸癌におけるリンパ節転移の分子生物学的メカニズム解明のため、消化器領域の臨床検体からRNAを抽出し、297例に対してCAGE解析、68例に対してRNA-seq解析という大規模なトランスクリプトーム解析を実施した。詳細は下記の通りである。 消化器領域における癌検体数(癌部と、同じ患者由来の腫瘍と隣接した正常部位)を当初予定していた60例から342例(食道癌11例、胃癌57例、肝臓癌51例、胆嚢癌39例、膵臓癌55例、大腸癌129 例)にスケールアップし、全ての検体に対してRNAの抽出を行った。RNA抽出後、RNAの分解が比較的進んでいないサンプル(RNA Integrity Number 6以上)に対して、転写産物の構造を同定するためのRNAシークエンス(RNA-seq)解析を実施した。臓器別の内訳は、食道癌2例、胃癌5例、肝臓癌17例、胆嚢癌13例、膵臓癌16例、大腸癌15例の合計68例であった。次いで、転写開始地点やエンハンサーを同定するためのCAGE (Cap Analysis of Gene Expression) 解析を、合計297症例(食道癌9例、胃癌49例、肝臓癌45例、胆嚢癌34例、膵臓癌44 例、大腸癌116例)に対して実施した。CAGEはRNAの分解が進んでいるサンプルに対しても行えるため、RNA Integrity Number 2以上のサンプルを対象とした。その後、これまでに作成したRNA-seqとCAGE解析用のサンプルを、次世代シークエンサーを用いて解析可能なデータへと変換し、得られたデータをもとにトランスクリプトーム解析を開始した。 シークエンスの結果、解析に用いることのできる大腸癌サンプルは、RNA-seq解析で15例(リンパ節転移陽性8例)、CAGE解析で89例(リンパ節転移陽性32例)であった。現在、シークエンスで得られたRNA-seqとCAGEのデータを統合、解析中である
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに多くの消化器癌検体において、CAGE (Cap Analysis of Gene Expression) による転写開始地点やエンハンサー、プロモーターに関するデータと、RNAシークエンス(RNA-seq)による転写産物の構造に関するデータを取得した。これらのデータと患者情報を統合し解析することで、大腸癌のリンパ節転移陽性症例に特異的に発現している遺伝子やプロモーターを同定し、どういった機序でリンパ節転移に関与するのかを検討する。 加えて、RNAの分解が進んでいない良質のサンプル(RNA Integrity Number 7以上)を用いて、通常のRNA-seqでは解釈が困難な遺伝子のisoformや構造の把握を可能にするLong read RNA-seqを実施する予定である。これらの技術を組み合わせることで、大腸癌における遺伝子構造を多方面から同定し、リンパ節転移のメカニズムの解明に努める。
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Causes of Carryover |
コロナによる影響があり、必要経費のみの支出となった為
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