2021 Fiscal Year Research-status Report
液性検体含有メルカプタンの定量分析法開発への基礎的研究―口臭の疫学調査へ向けて
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21K10256
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Research Institution | The University of Tokushima |
Principal Investigator |
伊藤 博夫 徳島大学, 大学院医歯薬学研究部(歯学域), 教授 (40213079)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
佐野 茂樹 徳島大学, 大学院医歯薬学研究部(薬学域), 教授 (20226038)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 予防歯学 / 口臭 / 歯周病 / メチルメルカプタン(メタンチオール) / ハイスループット分析 / 液体クロマトグラフィー / オルトフタルアルデヒド(OPA) / 有機化学 |
Outline of Annual Research Achievements |
口臭を心配する人は多いが,口臭は自分では分からず,他人に嗅いでもらって判定されることにも大きな抵抗があり,客観的な機器分析のニーズが存在する。現在の呼気ガスを分析する口臭検査では,検査検体の保管が不可能であり分析時間と設備の制約のため,集団検診や疫学調査等への応用は事実上不可能である。本研究では,この問題の革新的解決を目指し,口腔由来の病的口臭の主原因であるメチルメルカプタンを標的に,液体検体に含有されるメチルメルカプタンの有機化学的な間接検出法を開発することを目的とする。 本研究チームはこれまでに,汎用のアミノ酸分析法であるオルトフタルアルデヒド(OPA)法に着目し,分析対象をチオール類としたOPA変法を考案した。既存OPA法によるアミノ酸分析では,OPA,第一級アミン,チオールの3成分縮合反応がイミン中間体を経由する2段階の反応で進行し,蛍光を有するイソインドール誘導体が生成すると考えられている。第1段階で生成されるイミン中間体を単離精製し,チオール分析試薬として用いることができれば,チオールとの2成分による一段階の反応に単純化されることから,反応速度の大幅な向上が期待される。イミン中間体をニッケルセンサー試薬として使用した論文(Dhanushkodi M et al., Dyes and Pigments, 2020, 173, 107897)を基盤とし,OPA法での生成が想定されるイミン中間体の別途合成を試みたが,上記論文記載の反応を再現することは出来なかった。そこで,OPAではなくフタリドを原料として2-(イミノメチル)ベンジルアルコールを経由して,最終段階の酸化によりアルデヒド体を得る合成経路を検討した。目的とする2-(イミノメチル)ベンジルアルコールが2工程収率81%で得られた。今後,最終段階の酸化反応を詳細に検討し,イミン中間体の合成を達成する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当研究チームは,アミノ酸分析法として汎用されているオルトフタルアルデヒド(OPA)法に着目し,分析対象をチオール類としたOPA変法を考案した。OPA法およびOPA変法では,反応の結果生成するイソインドール誘導体が蛍光を発して,高速液体クロマトグラフィー等による高感度分析が可能となる。ここで一連の反応の途中に生成されるイミン中間体を合成・単離精製してチオール分析試薬として使用する戦略を試みた。これの理論基盤とした,イミン中間体をニッケルセンサー試薬として使用した論文(Dhanushkodi M et al., Dyes and Pigments, 2020, 173, 107897)中に記載されている反応を再現することが不可能であった。このため新たに別の合成経路を考え出し,試行錯誤する必要が生じたが,目的のイミン中間体合成の前駆物質の合成まで到達することができた。今後,最終段階の酸化反応の条件について詳細な検討が必要である。ヒトの唾液検体中のメチルメルカプタンの測定を模倣したバイオシミュレーション実験系の開発として,歯周病における口臭発生の主原因と考えられる細菌Porphyromonas gingivalis を嫌気培養し,培養上清液中のメチルメルカプタンを,OPA試薬と1,1,3,3-テトラメチルブチルアミンを加え,3成分縮合反応によるメチルメルカプタンの検出を試みた。その結果,薄層クロマトグラフィーにてイソインドールの生成が確認できたが,単離精製するには至らなかった。培養上清試料のロットによってはイソインドールの生成が確認できなかったことから,培養上清試料に溶存するメチルメルカプタンの濃度が十分ではなかったと考えられる。なお,別途に合成したイソインドールの標品は,培養上清試料中において分解しないことを確認した。並行して開発中のイミン中間体を用いた検出を検討する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
嵩高い第一級アミンを1,1,3,3-テトラメチルブチルアミンからより安定なイソインドールを与えることが期待されるC3対称第一級アミンに変更し,既存のオルトフタルアルデヒド法(OPA法)の第1段階での生成が想定されるイミン中間体の別途合成を検討する。また,出発原料として2-ブロモベンズアルデヒドを用い,第1段階でアルデヒド部位をアセタール保護した状態で第2のホルミル基を導入し,第2のホルミル基と嵩高い第一級アミンの脱水縮合によるイミン形成の後にアセタールを脱保護するという,新たな合成経路についても検討する。シミュレーション・バイオ実験系については,上述の新しい液体中チオール検出用試薬を用いて,P. gingivalis 培養上清液中のメチルメルカプタンの測定を試み,培養上気ガス中のメチルメルカプタン濃度測定結果と合わせて,両者間の相関性を検討する。
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Causes of Carryover |
本年度の予算に対しての使用額は,執行率にすると約95%であり,次年度使用金額約5万円ということは,概ね計画通り執行したと言えるものと考える。 使用計画:現在の国際情勢などから今後の物価の上昇が懸念されている。わずかな未使用分を充当しても,来年度の経費不足が危惧される。
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