2023 Fiscal Year Research-status Report
不可視にコード化された光による情報ハイディングとその応用に関する研究
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21K11970
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Research Institution | Kanagawa Institute of Technology |
Principal Investigator |
海野 浩 神奈川工科大学, 情報学部, 助教 (40387080)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
上平 員丈 神奈川工科大学, 公私立大学の部局等, 研究員 (50339892)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 情報ハイディング / マルチメディア情報生成 / 透かし |
Outline of Annual Research Achievements |
第3年度は,前年度に行った形態Aに関する実験結果に基づいて,低密度の情報の信号を実物体上に付与する場合において,色差成分変調法を用いたときの不可視性と可読性の実験を行った.実験において情報は文字列パタンとし,実験変数は①表示・撮影のフレームレートFR(30, 60fps)および②情報の付与強度ΔCb(青の色差成分の輝度の振幅変調値)とした.ここでΔCbは256段階のうち1から11まで1刻みで変化させた. 不可視性の実験の結果,FRが30fpsの場合はΔCbが1から3のとき,FRが60fpsの場合はΔCbが1から5のとき,その不可視性は90%以上であった.これらの結果から,FRが60の方が,30のときよりも不可視性の上限値が高いことが示唆された. 可読性の実験の結果,FRが30fpsの場合はΔCbが2以上のとき,FRが60fpsの場合はΔCbが3以上のとき,その信号は獲得可能であった.また,従来の原色成分変調法を用いた場合と比較して,色差成分変調法を用いた場合は,実物体の色に起因するノイズは少ないことが明らかになった. これらの結果から不可視性と可読性を同時に満たすΔCbの範囲が明らかになった. 形態Cでは,撮像画像に重畳されたQRコードの消去を試みた.時空間変調法を用いれば埋め込みコードの高コントラスト化が可能になり,撮像画像からのコード読み出しが容易になる.利用形態によっては,コードは読みだした後,それを消去する必要がある.従って,高コントラストのコードを撮像画像から完全に消去できるかが課題となる.本研究では,コードとしてQRコードを用い,画像生成AIの一種であるU-netタイプのオートエンコーダを用いて撮像画像に重畳されたQRコードの消去を試みた.実験の結果から,視覚上でコードの完全な消去が可能であることが確認でき,時間変調法の応用範囲拡大の可能性を示すことができた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
実施計画の形態Aについては,第1年度の途中で,当初予期していなかった,情報を高密度に付与するときの不可視性と可読性に関する問題点が抽出された.このため研究計画の大幅な見直しを行い,形態Aに関して追加の研究を行った. 不可視性の問題点を明確にするために,第1年度において,フラットパネルディスプレイ(FPD)に表示される画像の一定領域に情報を不可視に付与する技術において,原色成分変調法を用いて情報を高密度に付与するときの不可視性と可読性の研究を行った.可読性の問題に対応するために,第2年度において,情報の信号を付与する方法として色差成分を変調する方法を提案した.そしてその方法を用いた場合の不可視性と可読性に関する基礎的な知見を得るために,FPDに表示される画像の一定領域に情報を付与する技術において,この色差成分変調法を用いたときの不可視性と可読性の研究を実施した. 第3年度は,第2年度の研究結果に基づき,色差成分変調法を用いて低密度の情報の信号を実物体上の一定の領域に付与する場合における不可視性と可読性の実験を行った.実験により,この場合において不可視性と可読性の両方の条件が同時に満たされる情報の信号の付与強度(色差成分の輝度の変調振幅値)の範囲を明らかにした. この実験結果に基づいて,次年度は,色差成分変調法を用いて高密度の情報の信号を実物体の一定領域に付与する場合における不可視性と可読性の研究を行う. 形態Bについては,形態Aの研究計画の大幅な見直しが必要となったため,基礎的検討を行っている段階である. 形態Cについては,撮像画像中への距離画像の埋め込みは,基礎的検討を終えた段階で未完成である.しかし,最重要課題であり,かつ難題であった,高コントラストコードの消去が実現できた.これは大きな成果といえる.
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Strategy for Future Research Activity |
第3年度の研究成果に基づいて,第4年度は次のように研究を推進する. まず実施計画の形態Aにおいて,高密度の情報の信号を実物体の一定領域に付与する場合において,色差成分変調法を用いたときの不可視性と可読性の研究を行う.ここで,その高密度の情報としてチェッカーパタンを用いる.実験変数は情報の付与強度とする. なお,色差成分変調法を用いた実験は,原色成分変調法を用いた実験と比較して,作業工数が多い.そこで,この実験を行うために,色差成分変調に関するソフトウェアシステムの開発を行う.具体的には,(1)色差成分が変調されたステゴ動画像を生成するシステム,および(2)撮影された動画像から青の色差成分に対する総和画像を生成するシステムを開発する. また,原色成分変調法を用いる場合において,情報の付与強度を実験変数としたときの不可視性と可読性はまだ明らかではない.これに関する実験も実施する. 続いて形態Bについて,印刷画像へ高密度の情報を付与する方法の基礎的な検討を行う. 形態Cについては,撮像画像中への距離画像の埋め込みを基礎検討の結果を踏まえて完了させる.これと並行して,本研究課題が光を用いて実物体の撮影画像中に不可視に情報を埋め込むことができるという特徴を生かせば,その本研究による技術が,最近世界的な重要課題となっている生成AIによるフェイク画像の問題の一解決方法となることを示してゆく.
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Causes of Carryover |
研究者のその他の業務の多忙により,実験の一部は予定より遅れ,成果発表を予定していた国際会議に投稿できなかったものがあった.このため旅費の実支出額は計画より少なかった. 人件費・謝金として実験補助・データ整理の費用を当初見積もった.しかし,COVID-19に対応するため,実験補助・データ整理の要員の採用は取りやめた.このためその支出額は生じなかった. これらの差額の合計額が次年度使用額として生じた.この額は,次年度の旅費,参加費,論文校閲費,および本研究による光学透かし技術が生成AIによるフェイク画像の問題を部分的に解決可能であることを実証するために使用する.
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