2021 Fiscal Year Research-status Report
難曲津軽三味線民謡(じょんがら節)の構成音素解明と高精度自動採譜手法に関する研究
Project/Area Number |
21K11983
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Research Institution | Hachinohe Institute of Technology |
Principal Investigator |
小坂谷 壽一 八戸工業大学, 大学院工学研究科, 教授 (40405725)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 自動採譜 / 音素 / 共鳴・共振 / 譜面化 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究目的:津軽地方の民謡に「津軽じょんがら節」が在る。その奏法は古来より口伝でのみ伝えられ、最も難曲の1つと言われてきた。明治以降、気候風土の厳しい津軽地方では経済的な貧しさも重なり、三味線奏者は曲引きの妙を大音量で個性的に響かせないと門付け料が貰えず死活問題となっていた。必然的に競争意識が芽生え、誰も真似できない異次元の演奏が主流となり、その演奏技術は昔から口伝のみで伝えられてきた。地元民謡有識者によれば、「津軽じょんがら節(旧節)」は、三味線テクニックが凝縮され、この演奏が出来ると津軽民謡の大半が演奏可能とされている。本研究の目的は、最も難曲と言われる「津軽じょんがら節」の楽曲の構成音素解明し、その完全自動採譜化を図ることにより、楽譜の無い民謡をはじめ、邦楽音楽全般の譜面化に挑む。 研究実績の概要:「自動採譜」の原理は、ほぼ次の様に確立した。①楽曲音源の入力――>②音源周波数解析――>③音階(音長・音高)の判読――>④譜面化の処理をする。以下、2021年度は①~②の入力音源装置であるエレクトリック三味線を中心に制作した。生の津軽三味線は、表裏とも犬の皮が張られ、音を出来るだけ大きく共鳴させる太棹構造(独奏楽器仕様)になっている。これが小唄端唄用の細竿三味線(猫皮)構造(伴奏楽器仕様)と大きく違う点である。今回、弦の共振・共鳴を避けるべく“弦単位に高性能ピックアップマイクロフォンを装着”した。更に、弦毎のマイク装着部にはスリット(溝)を入れ共振を防止し、また胴表裏の皮を取り去り全体構造を共鳴防止型スケルトン仕様とした。これにより、三味線音の単独音階音(つぼに相当する音高周波数)をピンポイントで抽出可能とした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在迄に当初の目的であった下記①、②を解明又は実施した。 ①「津軽じょんがら節」楽曲構成音素の解明:一般的な西洋音楽は、最小16分~32分音符(休止符)の分解能表記があれば、一部を除き大半は西洋楽譜として表記可能である。しかし、「津軽じょんがら節」を構成している音符を西洋楽譜の観点から解析した所、最短音は後半のアドリブ演奏に用いられる三味線用語で“カマシ”(西洋音楽のトリルに似て細かな隣接音の超高速演奏繰り返し)がそれに匹敵し、=100(標準速度)とした場合、少なくとも32分音符付近迄の正確な認識処理が必要であった。しかもプロの名人奏者は更に超高速演奏となり、32分音符でも入力認識が出来なくなる為、ここは入力音の認識精度を更に向上させ、64分音符の入力音迄正確に認識させる事が必要である。又、「津軽じょんがら節」の奏法は、弦楽器の弦を弾く音ではなく、あくまで打楽器の様に激しく叩きつける撥の音色が特徴である。従って、激しく打てば目的とする音符の直前に、撥の打撃音が更に前音符(擬音)として繋がり、音符の団子状態(連続)表記となるのである。この解決法として音源周波数解析処理に「撥音(擬音)」を除外する高速のバンドパスフィルターを付加し目的音を正確に抽出する方法を採用した。 ②エレクトリック三味線の音響工学的共振・共鳴防止対策 “津軽じょんがら節”などの難曲の採譜は、音符が細かくて採譜が難しい。この改善策として、今回“新方式のエレクトリック三味線”を提案する。従来からの改良点として、三味線の上部(天神)糸巻き部分に音を吸収する素材を適用し音の回り込みを遮断、(2)天神部分と上棹部分の継ぎ目に断音材を入れ、天神からの回り込み音を遮断する、(3)胴掛けの音緒部分にゲル状の素材を入れ胴掛けからの共振・共鳴音に因る回り込み音の根絶などの方式を採用した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策として下記を予定している。 2022年度:自動採譜装置の構築とその妥当性の検証を中心に段階的に実施予定である。具体的には、次の項目を中心に研究開発を行う予定。・高速演奏時、入力音源に撥の打撃音と高速トリルが混じった場合に起動する高精度音階判別処理内タスク構成の検討と高速バンドパスフィルターの構築・入力音源判別分解能パラメータの拡充(32分音符--->64分音符)・入力音に混在する撥さばきが複数重なった場合の優先順位(パラメータ)の検討・エレクトリック三味線と自動採譜処理を繋げ、システムとしての検証を実施・プロの三味線奏者に最難曲“津軽じょんがら節”を弾かせ、専門家による完成譜面(三味線譜・西洋譜)の製作と検証(採譜精度100%の立証) これらの処理装置はソフト・ハードを含め多くの専門的技術・部品を必要としている為、三味線専門の工房や地域のソフトハウスとタイアップして装置を開発する予定である。
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Causes of Carryover |
当初、学会発表等で旅費を計上していたが、コロナの影響によりリモート発表に変更になった為、旅費に余りが生じた。
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