2023 Fiscal Year Research-status Report
性暴力被害者に対する法的救済の仕組みーフェミニスト法理論からのアプローチ
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21K12514
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Research Institution | Ferris University |
Principal Investigator |
山本 千晶 フェリス女学院大学, 国際交流学部, 准教授 (90648875)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 性暴力被害者支援 / DV被害者支援 / 性的DV |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は性暴力の潜在化がテーマであり、ヒアリング調査や相談記録の分析を進めるなかで夫や恋人からの性暴力(以下、「性的DV」)がもっとも潜在化しやすい被害形態の一つであり、DVと性暴力、どちらの被害者支援制度からもこぼれ落ちてしまうという構造が明らかになってきた。そこで、2023年度はDV関係に焦点化し、そこにおける支配のメカニズムを明らかにすることで性的DVが潜在化してしまう構造をデータ分析や理論面から実証的に検討した。業績①は「よりそいホットライン」に寄せられるDV被害相談の匿名データを分析し、制度につながらない被害者の支援ニーズを調査した。そこでは、現状の改善を半ばあきらめ、相談員に話すことでどうにか気持ちを紛らわそうとする被害者像が浮かび上がってきた。また、女性のセクシュアリティは妻役割において男性に従順であることが期待されてしまう結果、妻役割において性的な支配を内面化しながら結婚生活が構築されてしまうプロセスを明らかにした(業績②)。性暴力だけでなく、セクシュアリティが関わる被害はもっとも顕在化しにくい被害であり、そこにおいて「リプロダクティブ・ヘルス&ライツ」概念は性と生殖に焦点化した人権の枠組みを提供する点で意義があることを示した(業績③)。 【業績①発表】山本千晶「DV被害者のニーズを踏まえた支援のあり方」日本司法福祉学会第23回(於関西福祉科学大学)2023年10月1日 【業績②論稿】山本千晶「女性の経験とドメスティック・バイオレンス-その「みえにくさ」と妻/母役割」稲原・川崎・中澤・宮原(編)『フェミニスト現象学』(ナカニシヤ出版、2023) 【業績③論稿】山本千晶「旧優生保護法による強制不妊手術国家賠償請求事件(大阪高判2022(令4)2月22日判時2528号5ページ」ジェンダー法学会編『ジェンダー視点で読み解く重要判例40』(日本加除出版、2023)
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度、複数のワンストップ支援センターにヒアリング調査を行った結果、大手芸能事務所の一連の性加害事件報道によって過去の性虐待や男性被害者からの相談が増加しているという調査結果を得ることができた。本研究は性被害の顕在化にあるが、世間のスキャンダルやメディア報道といった外部環境によっても顕在化がもたらされていることが明らかとなった。 一方で、刑法改正によって性的グルーミングや撮影罪などあらたな性暴力被害が犯罪化されることとなったが、性暴力被害の多くを占める性的DVについては依然として顕在化の兆しがない。これに関して、結婚生活や恋人との関係の中で女性のセクシュアリティがどのように影響を及ぼしているのか、ジェンダーの観点から分析を進めてきたが、そのなかでもアメリカのフェミニスト法理論家Martha MahoneyやRobin Westの論稿は性的DVがなぜこれほど顕在化しにくいのかを分析する上で参考になるという手ごたえを得た。ワンストップ支援センターや相談記録からは、性的DVが「報復」や「制裁」といった相手を支配する手段の一つとして利用されていることがわかってきたが、MahoneyやWestは、被害者がDVを生き延びるために相手の機嫌をとったりなだめたりする手段の一つとして性的な関係を位置づけようとしており、被害者の主体性との関りにおいて性的DVのダイナミズムを明らかにできると考えている。 上述の業績②においてWestの「giving self」として被害者側の心理的なメカニズムを一部言語化することができたが、現在、ヒアリング調査や相談記録に基づく観察を、理論展開できるための準備を整えている。
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Strategy for Future Research Activity |
性的DVが潜在化するメカニズムが明らかになればなるほど、法制度が果たす役割の限界に直面せざるを得ない。性的DVに対しては、現在実施されている被害に対する直接的な支援に加え、①性暴力被害についての理解を高めることを通じて早期に相談につなげるための啓発的アプローチ(被害者への啓発)、②加害者が加害をエスカレートする/繰り返すのを防止する教育的アプローチ(加害者への働きかけ)、そして、③そもそも被害・加害を生じさせない予防教育が必要である、という結論に行きつかざるを得ない。 むしろ、これらをワンセットで「被害者支援」とするような、新たな支援モデルの再構築を提言していく必要があるように思われる。また、DV被害者支援と性暴力被害者支援の「はざま」に落ちてしまうのが性的DV被害であるとするなら、両者を分けて考えるのではなく、いかに両制度の連携をはかりながら制度を利用しやすくしていくかが鍵となる。本研究は必ずしも制度論を展開するものではないが、むしろ潜在化のメカニズムを理論的に明らかにすることで、現在の制度の限界を指摘し、どのような制度を構想できるのか、そのための視座をもたらすものである。したがって、すでに諸外国で施行されている制度(たとえば、限定的保護命令や加害者プログラムの義務付け等)も積極的に検討の対象にしながら、顕在化を後押しするための理論構築を行いたい。
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Causes of Carryover |
2023年度は韓国での亜細亜法女性学会での発表を予定していたが、前者はゲストを招く関係で学期中の開催となり出席することができなかった。また、理論研究に予想以上に時間を割くこととなり、ヒアリング調査の日程確保が難しく、予定していたヒアリング調査のうち一部しか実施することができなかった。 今年度はすでに沖縄県のワンストップ支援センターにヒアリング調査を実施することが決定しているほか、岩手県や香川県で開催される関連学会の参加も決まっているため、これらの近隣県も含めたワンストップ支援センターの視察・ヒアリング調査の打診をしているところである。また、ヒアリング調査の結果を発表するための研究会やシンポジウムの開催も積極的に検討したいと考えている。
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Research Products
(3 results)