2022 Fiscal Year Research-status Report
Mechanical properties of elastin hydrogels and its application to biomaterials for spinal ligament repair
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21K12675
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Research Institution | Kindai University |
Principal Investigator |
山本 衛 近畿大学, 生物理工学部, 教授 (00309270)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | バイオメカニクス / エラスチン / 生体軟組織 / 脊柱靭帯 / 力学的特性 / 組織再生用材料 |
Outline of Annual Research Achievements |
靭帯は,骨と骨とを繋ぎ,関節を形成する線維性結合組織であり,関節の支持安定性と可動性をバランスよく制御するという力学的な役割を担っている.このような靭帯は,骨,筋,腱などとともに運動器を構成し,身体運動を行ううえで受動的ではあるものの極めて重要な機能を発揮している.従って,靭帯に断裂や損傷が生じた場合は,身体運動の能力を著しく低下させる.靭帯の力学的特性に関する先行研究は,膝関節などに存在するコラーゲンを主成分とする前十字靭帯などを対象としたものが多い.一方,脊柱靭帯に分類され,エラスチン含有量の高い項靭帯や黄色靭帯の生体力学的特性を詳細に検討した事例は非常に少なく,特に靭帯破断時の応力やひずみを正確に測定した研究はほぼ存在しない.項靭帯と黄色靭帯は,椎骨や椎間板などとともに脊柱を構成しており,それらの乾燥重量の約80%がエラスチン成分であり,コラーゲンを主成分とする他の靭帯とは生体力学的特性が異なっていると考えられている.皮膚,腱や靭帯などの生体軟組織に含まれるコラーゲンとエラスチンは,代表的な細胞外マトリックスである.これら両成分は,線維性の高分子であり,様々な組織中で支持構造体を形成する材料として,力学的な役割を果たしている.コラーゲンは強靭な線維であり,組織の剛性や破断特性と密接に関連していると推察されている.一方,エラスチンは低剛性,低強度の特徴を有する線維であり,組織の伸展性や弾性を支配する主要素と考えられている.脊柱靭帯の力学的機能はエラスチンの性状に依存し,その老化や損傷治癒過程においても,エラスチン成分の変化が関与していると推測される.従って,損傷靭帯の治療においてもエラスチン材料を有効に利用できる可能性がある.本研究では,脊柱靭帯の一種である黄色靭帯に対して力学試験を実施し,エラスチンが靭帯において果たしている力学的機能についての知見を得ることを試みた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
エラスチン材料を用いた靭帯再建において,治療対象となる脊柱靭帯の力学的特性を把握することは極めて重要であり,人工的に作製する材料の目指すべき性状に明確な指針をもたらすことが可能となる.さらに,エラスチン材料の設計指針の確立には,脊柱靭帯におけるエラスチン成分の力学的寄与についても理解する必要がある.そこで本研究では,脊柱靭帯の一種である黄色靭帯に対して引張試験を実施し,靭帯の応力-ひずみ関係やエラスチンが靭帯において果たしている力学的機能に関するデータを取得した.12週齢のSD(Sprague-Dawley)ラット(雄,n = 5,442 ± 15 g)の第12胸椎(T12)から第5腰椎(L5)の脊椎を摘出した.各脊椎からT12-L1間,L2-L3間,L4-L5間に存在する黄色靭帯を含む試料を作製した.これらの試料をエラスターゼ処理群とコントロール群に分けた.エラスターゼ処理群の試料は,37℃に維持した濃度5%エラスターゼ溶液中に2時間浸漬させた.エラスターゼはエラスチンを分解する酵素であり,この処理を施すことによって,エラスチン成分の影響を減少させた黄色靭帯の力学的特性を把握することができる.各試料を材料試験機に取り付けた後,試料の湿潤を維持した状態で力学試験を室温空気中において実施した.その結果,コントロール群とエラスターゼ処理群の破断荷重は,それぞれ13.2 ± 4.9 N(Mean ± S.D.)と3.9 ± 1.8 Nであり,両群間に有意差が認められた.この結果から,エラスターゼ処理によって黄色靭帯の力学的強度が顕著に減少することが明らかになり,エラスチン成分が黄色靭帯の力学的特性に大きな影響を及ぼすことが示された.このように組織再生用材料の目標となる靭帯組織の力学的特性に関するデータが得られており,本研究は順調に進捗していると判断される.
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の最終目標は,エラスチンを主成分とした脊柱靭帯再建用材料を開発することである.この目標を達成するために,脊柱靭帯の力学的特性を再現する魚類由来エラスチンハイドロゲル材料の作製を試みる計画である.通常,エラスチン成分を抽出するための原材料として使われることが多いのは,ウシやブタなどの哺乳類の項靱帯や血管である.しかし,本研究では人獣共通感染症の感染リスクを考慮して,ヒトと同じ哺乳類ではなく,種として離れている魚類由来組織を原材料として選択する.魚類動脈球に対して,脱水,酸化,および透析処理を含む化学的な精製過程を進めていくことで,可溶性エラスチンを得る.その後,エラスチンの熱コアセルベーション現象を利用して,高分子量の成分を取り除くことで抽出される低分子量エラスチンを実験に使用する.エラスチン含有材料を作製するため,ジメチルスルホキシドとエラスチンを混合する.また,架橋剤には,細胞親和性が比較的良好であることが知られているヘキサメチレンジイソシアネートを使う.ジメチルスルホキシド,エラスチン,架橋剤が均一になるように十分に撹拌した後,オーブン内に数日静置することで,エラスチンハイドロゲル材料が作製できる.その後,作製したエラスチン材料の力学的特性を調べる.ひずみ計測用のマーカーとして,長軸方向に離れた2本の線をニグロシンで試料に印し,万能材料試験機を使用して引張試験を実施する.ひずみの計測には,試料実質部以外で生じる変形の影響を除去するためにビデオディメンジョンアナライザーを使用した非接触計測を行なう.まずプリコンディショニングとして微小変形を10回程度作用させた後,引張速度20 mm/minで試料が破断するまでの負荷試験を実施する.この力学試験によって,エラスチン材料の破断応力や破断ひずみなどの力学的特性を把握し,生体の脊柱靭帯との相違について検討する予定である.
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Causes of Carryover |
本年度の研究費残額は461,990円であった,新型コロナウィルスの影響があり,当初予定していた海外での研究発表を行えなかったことを除けば,順調に遂行された研究にほぼ使用することができたと判断される.来年度も継続して行うことになっている研究課題であり,今後実施される実験や学会発表の費用として,本年度の残額を有効に使用することができる見通しである.
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Research Products
(1 results)