2022 Fiscal Year Research-status Report
フィヒテの実践哲学における「人間の尊厳」概念の体系的解釈モデルの構築
Project/Area Number |
21K12836
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Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
櫻井 真文 同志社大学, 国際連携推進機構, 特別研究員 (20844096)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | カント / シュミート / フィヒテ / 方法論 / 知識学 |
Outline of Annual Research Achievements |
2022年度は、各人が自他を尊厳ある主体として取り扱う際の鍵概念となる「選択意志」の役割に焦点を絞り、「純粋意志」及び「道徳的使命」が尊厳に基づく道徳的な行為様式の諸制約であることを解明した。具体的な研究の進め方としては、フィヒテと同時代人のSchmidの『道徳哲学試論』(1790年1版、1792年2版)の「叡知的宿命論」との関連を踏まえた上で、フィヒテにおける人間の「選択意志の自由」の意義を考究した。一連の成果については、9月にドイツ・ライプツィヒで開催された国際フィヒテ協会大会においてDie letzte Streitphase zwischen Fichte und Schmid um 1796という表題の口頭発表を行い、これまで研究者の十分な注意が向けられてこなかった『シュミート教授により提示された体系と知識学との比較』(1796年)論文において、フィヒテがイェーナ期後期知識学の方法論を示していることが明らかにされると共に、それゆえ本著作が、新しい方法による知識学の最初の序論を形成しているという解釈が提示された。また「選択意志」概念の哲学史的展開に関しては、前年度の研究発表に基づき、「批判期カントにおける選択意志の二重構造」という表題の論文が公開された。 本研究実績の哲学史的意義は、1790年代のカント哲学の展開ならびにカント派哲学の勃興を丹念に読み解くことにより、意志論という視座から、シュミートがカント哲学の経験心理学的な後継者であるのに対して、フィヒテがカント哲学の超越論的な正当後継者であるという明確な構図を描き出した点に認められる。とりわけ「尊厳」概念の全貌を解明するためには、人間の感性的次元のみならず超感性的次元をも、超越論的方法論に即して正面から論じる必要がある点を指摘した点に、本研究の重要性が存していると言える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2022年度の個別課題として掲げた「尊厳に基づく道徳的な行為様式の解明」に関しては、当該テキストの解釈が大きな破綻もなく進展しており、研究発表時の質疑応答でも各国のフィヒテ研究者と活発な議論を交わせたことから、順調な進捗状況であると言える。本年度も同志社大学からの派遣研究員(EUキャンパスフェロー)としてテュービンゲン大学で研究を進め、受入研究室のBrachtendorf教授とともに、ドイツ古典哲学における自由論と決定論の論争史について知見を深めることができた。ドイツでは2022年4月よりコロナの制限が解除されてきたこともあり、5月にはRammenauで開催された3日間の国際フィヒテ読書会にも参加することができ、第一線のドイツ古典哲学研究者と研究交流を深めることができた。それと並行して、オンライン会議機能を活かして、毎月開催されている日本フィヒテ協会主催の「フィヒテ読書会」にも定期的に参加することで、海外の研究動向を追うだけではなく、国内の研究者との交流も保ち続けることができた。以上の通り、文献研究は順調に進んでおり、国内外の研究者との意見交換も継続的に行っており、ドイツ語での現地での研究発表も行えたことから、本研究はおおむね順調に進展していると言えるであろう。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策としては、交付申請書記載の当初の計画に従い、フィヒテの「尊厳」概念の現代的意義の解明に着手する。具体的には、カントの「尊厳」概念の現代的意義を多様な観点から検討するKant's Concept of Dignity(2020)を適宜参照し、カントの尊厳論に比してフィヒテの尊厳論ではより行為論的性格が強調されており、またフィヒテ尊厳論では哲学者ならびに学者一般が、「尊厳」概念の社会的拡張に対して一層重大な役割を果たすことを明らかにする。 なお申請者は2023年度より大阪大学の学振PD特別研究員として、批判期カントの自然法講義の解明にも従事する予定である。そのため研究の主要拠点は国内に移ることになるが、本研究課題の総括的発表を行う際には科研費を利用してテュービンゲン大学に短期滞在し、Brachtendorf教授と共同討議を行う予定である。
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