2023 Fiscal Year Annual Research Report
フィヒテの実践哲学における「人間の尊厳」概念の体系的解釈モデルの構築
Project/Area Number |
21K12836
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
櫻井 真文 大阪大学, 大学院人文学研究科(人文学専攻、芸術学専攻、日本学専攻), 特別研究員(PD) (20844096)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 尊厳 / ヘンリッヒ / フィヒテ / 実践 / 意志の自由 / 自由の体系 |
Outline of Annual Research Achievements |
2023年度は、カント尊厳論から現代の尊厳論へと至る「尊厳」概念の展開史を踏まえたうえで、フィヒテの「人間の尊厳」概念の有効性と射程を解明した。その際、カントの「尊厳」概念の現代的意義を多様な観点から検討するKant’s Concept of Dignity(2020)を適宜参照し、カントの尊厳論とフィヒテの尊厳論には、特に各人の「意志の自由」を重視しているという点で、大きな親和性が見受けられることを確認した。さらにフィヒテの「尊厳」概念の現代的意義を考察する際には、ヘンリッヒの後期のフィヒテ研究である『この自我は多くを語る』(2019)を取り上げ、「人間の尊厳」の根拠を共同体や超人間的な神の内に求めるのではなく、一人称的存在者の「理性実践」の内に明確に指摘した点に、フィヒテの尊厳論の哲学史的意義が存することを解明した。一連の成果については、11月に開催された日本フィヒテ協会の「共同討議」で発表を行い、フィヒテの「人間の尊厳」概念は哲学実践の新たな領野を切り拓くものであるという解釈が提示された。 本研究は期間全体を通じて、フィヒテ実践哲学において「人間の尊厳」概念を体系的に解釈することはいかにして可能か、という問いへの回答を試みてきた。具体的には、①「人間の尊厳」概念のア・プリオリ性の証明、②「尊厳」概念に基づく道徳的な行為様式の解明、③「尊厳」概念の現代的意義の究明、に取り組む中で、フィヒテの「人間の尊厳」概念が各理性的存在者の「意志の自由」なしには成立しないものであることが究明された。すなわちフィヒテは「人間の尊厳」概念を神学的伝統や当時の世俗的理解の中で論じるのではなく、自らの「自由の体系」に基づき新たに論じており、有限的存在者の実践的課題として独自に展開したのである。本研究の哲学史的意義は、フィヒテ尊厳論の卓越した実践的性格を浮き彫りにした点に認められるであろう。
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