2021 Fiscal Year Research-status Report
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21K12843
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
眞鍋 智裕 北海道大学, 文学研究院, 准教授 (60838431)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 後期不二一元論学派 / 救済論 / 信愛論 / ヴィシュヌ教思想 / マドゥスーダナ・サラスヴァティー / ヴォーパデーヴァ / ヘーマードリ / シュリーダラ・スヴァーミン |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、16-17世紀に活躍したインド不二一元論学派の学匠マドゥスーダナ・サラスヴァティーの救済論体系を解明するためのものである。具体的には、彼が提示する三つの救済手段、すなわち1) 聖句の瞑想、2) 信愛、3) ヨーガが彼の救済論体系のなかで統合的に結びつけられうるのか否かを解明しようとするものである。本年度は、彼の三つの救済手段のうち、2) 信愛と3) ヨーガが述べられているテキストの解読・分析を行った。 本年度は、主にマドゥスーダナの2) 信愛論に関して研究を進めた。すなわち、彼の信愛論の著作『信愛の霊薬』の解読を進め、彼の信愛論は、不二一元論学派の伝統的な知識の神学を感情論に転換させた感情の神学と呼びうるものであることを明らかにした。その転換が可能なのは、知識も感情もともに精神原理であるブラフマンに依拠しているからであることも明らかにし、以上のことに関して論文にまとめた。現在は、マドゥスーダナの提示している11段階からなる信愛の階梯論の箇所の解読を進め、聖句の瞑想との関連について考察を加えている。 彼の信愛の階梯論の構造を分析するにあたり、彼は、先行するヴィシュヌ教徒であるヴォーパデーヴァ(12-13世紀)とヘーマードリ(12-13世紀)の信愛論、さらに同じくヴィシュヌ教徒シュリーダラ・スヴァーミン(14-15世紀)の信愛論からの影響を受けていると考えられるため、彼らの信愛論に関してもテキストの解読・分析を進め、マドゥスーダナに与えた影響に関して考察を加えている。特にヴォーパデーヴァとヘーマードリの信愛論のうち、聖句の瞑想やヨーガとの関わりが推察される「ヴェーダ聖典に規定された信愛」の定義が論じられた箇所について解読・分析を行い、論文にまとめた。 なお、マドゥスーダナ、ヴォーパデーヴァ、ヘーマードリそれぞれの著作に関して、写本に基づき校訂テキストの作成も進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
マドゥスーダナの三つの救済手段のうち、2) 信愛と3) ヨーガに関して、それぞれが論じられている『信愛の霊薬』と『バガヴァッド・ギーター註』の解読が予定通りに進んでいる。また、それぞれの解読成果に基づく分析もおおむね予定通りに進んでいる。 しかし、研究計画時点で予定していたインドへの写本調査計画がCOVID-19の流行の影響により遂行不可能となり、収集予定であった『信愛の霊薬』のサンスクリット語写本が未入手の状態である。以前に収集していた写本2種や、インターネット上で閲覧可能な写本が存在しているため、それら利用可能な写本に基づき『信愛の霊薬』の校訂作業を進めてはいるが、写本の数がまだ少ないこと、また『信愛の霊薬』全三章のうちの第一章の写本しか利用可能でないことから、当初の計画より校訂作業が遅れている。またテキストの校訂が不十分であるため、テキスト解読や分析にも影響が出ていることは否めない。 さらに、テキスト校訂の遅れによる影響に加え、研究者が専任教員として着任した年であることやCOVID-19の流行の影響により自由に海外渡航も行えず、計画していた海外でのテキスト校訂の成果検討の機会が持てなかった。以上のように、主に写本収集に関わる点で計画通りにいかなかった点はあるが、残りの研究期間で挽回できる程度であると考えており、おおむね研究は順調に進展していると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の研究計画に基づき、引き続きマドゥスーダナの『信愛の霊薬』の読解・分析を進め、彼の11段階の信愛論の構造を明らかにすると共に、2022年度から彼の『ヴェーダーンタの如意樹』の後半部の解読・分析を開始し、彼の1) 聖句の瞑想論の解明に努める。『信愛の霊薬』『ヴェーダーンタの如意樹』双方の分析に際しては、伝統的な不二一元論学派の聖典解釈方法である「汝」という語意確定と「それ」という語意確定、また「汝はそれである」という聖句全体の語意確定という要素の有無に注目し、1) 聖句の瞑想と2) 信愛とが統一的な救済論体系に位置づけられるか否かを考察する。さらに、以上の作業が終了次第、3) ヨーガに関しても、マドゥスーダナによる聖典『バガヴァッド・ギーター』に対する註釈におけるヨーガ論に上記の方法で分析を加え、1) 聖句の瞑想と2) 信愛との関係性を明らかにし、マドゥスーダナの救済論体系の構造を解明する。 さらに、特にマドゥスーダナの信愛論に影響を与えたと想定されるヴォーパデーヴァ、ヘーマードリ、シュリーダラの信愛論の解明を進めると同時に、2022年度はマドゥスーダナの信愛論が後代の不二一元論学匠の救済論体系に与えた影響も考察する。その学匠とは、17世紀のナーラーヤナ・ティールタ、同じくブラフマーナンダ、また18世紀のサダーナンダ・カーシミーラカである。 また、延期しているインドへの写本調査に関して、2022年度は国内とインドにおけるCOVID-19流行の状況を鑑み、安全に調査が遂行可能と判断できれば9月あるいは3月にプネー、トリシュール、チェンナイに写本調査に赴く。2022年度内にインドへの写本調査が不可能と判断した場合には、再び調査を次年度に延期する。その際にも、現在利用可能な写本に基づき、『信愛の霊薬』第一章、『バガヴァッド・ギーター註』のテキスト校訂を続行する。
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Causes of Carryover |
COVID-19の流行の影響により、インドへの写本調査研究を次年度に延期したこと、また予定されていた国際学会が延期になったことによって旅費を使用しなかった。また、写本調査研究を延期したことによって写本収集が行えず、テキストの校訂が十分に遂行できなかった。そのため、テキスト校訂の成果検討会が行えず、研究協力者への謝金支出を行わなかった。以上の事情により、当該助成金が生じてしまった。 当該助成金は、2022年度分と合わせ、インドへの写本調査への出張費や、2023年1月に延期となった国際学会への出張費、また9月に予定している研究協力者との研究会における謝金として使用する予定である。
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