2023 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
21K12843
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
眞鍋 智裕 北海道大学, 文学研究院, 准教授 (60838431)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 後期不二一元論学派 / 救済論 / 信愛論 / ヨーガ理論 / マドゥスーダナ・サラスヴァティー / 主宰神論 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は主に、【1】本研究の主要な考察対象である17世紀頃に活動したインド・不二一元論学派の思想家マドゥスーダナ・サラスヴァティーの著作『信愛の霊薬』のサンスクリット語写本に基づく新しい校訂テキストの作成作業、【2】同じくマドゥスーダナの著作であり聖典『バガヴァッド・ギーター』に対する註釈の解読作業を行った。さらに、【1】の作業に当たり、テキストの異読箇所の確定という問題の解決の糸口として、【3】インド・タミル・ナードゥ州チェンナイ市にあるGovernment Oriental Manuscript LibraryとAdyar Library Centreを訪問し、写本調査・写本収集を行った。 【1】に関しては、前年度からの継続作業であり、同著の第一章に限っては全体の2/3の校訂作業が終了した。【3】に関して、『信愛の霊薬』の写本は所蔵されておらず入手することは出来なかったが、入手済みの4本の写本と4本の公刊本に基づき作業を進めた。公刊本の異読箇所の確定も前年度に比べて大幅に進んでおり、これまでの公刊本よりマドゥスーダナの真意に適ったより良いテキストの作成が見込める。 また先行研究においては、マドゥスーダナは『信愛の霊薬』と『ギーター註』において「信愛」と「瞑想」という二つの宗教実践に対する比重のかけ方が異なるとされており、どちらの宗教実践を彼が重視しているのか明らかにされていなかった。この点に関して、【2】の作業の結果、マドゥスーダナの最終的な立場は『ギーター註』に述べられているものである可能性が非常に高いという結論にいたり、その成果を日本印度学仏教学会の第74回学術大会において発表し、さらに同学会の学術誌に論文の形で公表した。まだこの点に関しては断定的な結論に至っておらず、この問題解決のために新たに彼の『ヴェーダーンタの如意樹』という文献解読を進めているところである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
マドゥスーダナの「信愛論」と「ヨーガ理論」に関しては、関連する文献の解読作業が順調に進んでおり、それに伴って彼の両理論に関する分析も順調に進んでいる。この点に関しては当初の研究計画通りに進んでいる。 一方、COVID-19の影響もあり、インドにおける写本調査が十分に遂行できていない状況であるため、『信愛の霊薬』の校訂作業において利用可能な写本が期待していた数ほど収集できていない状況にある。また、現在入手済みの写本についても全て、『信愛の霊薬』全三章のうちの第一章のみの写本であり、第二・第三章が含まれている写本は未入手である。第二章と第三章についての校訂作業を進めるにあたって、これらの章を含む写本を発見し、その複写を入手することは急務である。 また、マドゥスーダナの「聖句の瞑想論」を検討するために、彼の『ヴェーダーンタの如意樹』の解読作業を進めているが、これまで出版されている公刊本2本には異読が多く、しかも文意が正反対になってしまい、同著のテキスト確定に想定よりも多くの時間がかかってしまっている。 以上の通り、想定よりも研究の進展が滞っている要因がありながらも、「信愛論」と「ヨーガ理論」の関係はもちろんのこと、「聖句の瞑想論」を含めた三理論の関係性について、マドゥスーダナの『ギーター註』の解読を進めていくにつれて彼の思考の理解が進展している。そのため、全体的には当初の研究計画通りに研究が進んでいると判断している。
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Strategy for Future Research Activity |
マドゥスーダナの著作『ヴェーダーンタの如意樹』の解読を進め、不二一元論学派の思想家としての彼の「聖句の瞑想論」を分析し、その「聖句の瞑想論」と、これまで分析を進めてきた彼の「信愛論」や「ヨーガ理論」とがどのような関係性にあるのか、つまり彼の「聖句の瞑想論」の中に「信愛論」や「ヨーガ理論」が体系的に位置づけられるのか否かを明らかにする。また、位置づけられる場合には、その構造体系を可視化する作業を行う。一方、位置づけられない場合には、三理論が補完的な関係にあるのか、あるいは全く別々の実践理論として想定されているのか、ということを明確化していく。また、引き続きマドゥスーダナの著作『信愛の霊薬』の新たな校訂テキスト作成作業も行い、2024年度には完成させる予定である。 以上の作業を遂行するためには、先ず『ヴェーダーンタの如意樹』のテキスト確定作業を行う必要があり、また『信愛の霊薬』の第二・第三章を含む写本の入手も必要となる。そのため、前年度に続いて写本の収集が必要となる。そのために比較的早い時期にインドへ写本調査へ赴く必要があろう。また現在では、インドの多くの研究所でインターネット上での写本のデジタルコピーの入手が可能となっており、渡航費用対策として、当該文献の写本もインターネット上で入手可能であれば、このようなサービスも利用していく。
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Causes of Carryover |
COVID-19の影響で、初年度、二年度とインドへの写本調査や国内・海外への研究出張に要する旅費を使用しておらず、その費用分が翌年度分として残ってしまっていた。三年度である2023年度は、国内への研究出張やインドへの写本調査を遂行し、繰り越してきた旅費分をそれなりに使用したが、報告者の本務校での学務等もあるため、研究出張に関する旅費として全て使用することはできなかった。2024年度にも初年度、二年度と実行できなかった国内・海外への研究出張を行う予定であるため、2023年度に他の費目に振り返るわけにもいかず、その結果、次年度使用額が発生してしまった。 2024年度は毎年開催される国内での学術大会の他、東京でのワークショップを計画しており、また海外での国際学会も開催される予定であるため、研究出張に関わる旅費が多く必要となることが予想される。そのため次年度使用額分は、国内・海外への研究出張に関わる旅費に組み込んで使用する予定である。
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