2021 Fiscal Year Research-status Report
Genealogical study of Western mysticism and the concept of experience
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21K12847
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
渡辺 優 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 准教授 (40736857)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 神秘主義 / 経験・体験 / キリスト教 / 近世西欧 / 雅歌解釈 / アウグスティヌス / モンテーニュ / ジャン=ジョゼフ・スュラン |
Outline of Annual Research Achievements |
一年目となる本年度は、まずは研究の主題である「経験」概念について、広く現代西洋思想研究における問題提起のなされかたを整理することに努めた。そのうえで、キリスト教神秘主義の伝統における「経験」概念に注目する本研究がどのような新規性と意義をもちうるか、先行研究を検討しつつ、とくに17世紀フランスの神秘家スュランのテクスト解釈を通じて、今後の研究の足掛かりとなる具体的な見通しを与えた。 現代西洋思想における「経験」概念批判の射程については、主としてH.G.ガダマー、M.ジェイ、G.アガンベンらの議論から多くの示唆を受けた。その結果、今後掘り下げるべき重要論点として浮上してきたのは、アイスキュロス『アガメムノーン』に言われる「パテイ・マトス(受苦することによって学ぶ)」としての経験知であり、また、そうした経験知のいわば最後の証人としてのモンテーニュの経験論、およびそれと対照をなすベイコン、デカルトの近代的経験概念である。これらの論点抽出は、本研究が掬い上げようとする、近代的経験/体験概念とは別様の経験知に具体的な輪郭を与えるという点で、意義のある成果といえる。 並行して、キリスト教霊性史に照準を合わせた整理も行った。主としてD.クルセル、N.ペイジ、C.ブラン、E.ファルクらの研究を参照し、今後検討すべき文献をリスト化した。この作業を通じて明らかになってきた重要論点は、アウグスティヌス解釈史・受容史、中世の修道院神学、また、神秘主義的経験論にとってのジェンダー・セクシュアリティ研究のもつ潜在的な可能性である。 以上の研究成果は、学会・研究会での発表(5件)、雑誌論文(1件)、共著(1件)にまとめられた。概して、新たな思想研究の転回のために、経験概念批判という切り口が、神秘主義研究のもつ潜在的なインパクトを引き出しうるものであることが確かめられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は以下三つの論点を設定し、順次考察を重ねてゆく見通しを立てている。①中近世における神秘主義的「経験」概念の台頭。②近代神秘主義論における体験の前景化。③「経験の学知」としての神秘主義の近現代的展開。 一年目となる本年度は、①について中近世の雅歌解釈を中心に個別の神秘主義文献の解釈に取り掛かる予定であったが、実際にはその手前の段階にとどまった。この理由として、コロナ禍のため、予定していた海外調査ができなかったこと。また、現代西洋思想研究における経験概念批判論のもつ射程の大きさが想定を上回るものであったため、関連文献の検討を含めこの点の整理に当初の計画よりも多くの時間を要したことが挙げられる。 他方、スュランを中心に、アウグスティヌス、モンテーニュ、ベイコンなどのテクストを検討し、近世における経験概念の錯綜について具体的な見通しを与えることができた。③についても、リジウのテレーズ関連文献をはじめ、基本資料の収集は順調に進んでいる。 以上から、研究はおおむね順調に進展していると判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の研究計画に沿って、中近世における神秘主義的「経験」概念の台頭を、雅歌解釈を中心に論証する予定である。その際、研究計画策定時には視野に入っていなかった、13世紀~14世紀の女性神秘家たちのテクストも検討対象としたい。 具体的には、日本宗教学会学術大会をはじめ各種学会、研究会での発表と議論をペースメーカーとして研究を推進する。また、スュランの経験論に関して本年度中に『パトリスティカ』に論文を一本投稿するとともに、一年目の成果を踏まえて神秘主義の経験論の思想史的可能性と意義についてまとめ、『宗教研究』もしくは『宗教哲学研究』に投稿することをめざす。 可能であれば、フランスに渡航して資料収集や現地研究者との議論の機会をもちたい。それが難しい場合でも、e-mailやオンライン上でのやりとりを通じて研究上の助言を得たい。
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Causes of Carryover |
コロナ禍により、当初予定していた出張(国内・国外)を実施することができなかったため。次年度に予定している出張の旅費として、また、一年目に収集できなかった文献資料の購入費として使用する予定である。
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Research Products
(7 results)