2021 Fiscal Year Research-status Report
人身供犠の解明―古代オリエント・地中海世界を中心にして―
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21K12853
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Research Institution | Ancient Orient Museum |
Principal Investigator |
岩嵜 大悟 (財)古代オリエント博物館, 研究部, 共同研究員 (00770166)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 人身供犠 / 古代オリエント / 地中海世界 |
Outline of Annual Research Achievements |
人身供犠は古代オリエント・地中海世界に多くの文献上の言及が見られると共に、さまざまな考古学的発見も続いている。本研究課題では両者の事例をともに扱い、その特質を明らかにすることを目的としている。本研究課題1年目である2021年度は、文献に見られる人身供犠に関連するとされる事例を網羅的に検討するとともに、ヘブライ語聖書に見られる人身供犠に関連する記事を分析した。 ①古代地中海・オリエントでの文献上の事例としては、歴史記述や悲劇などの文学作品に数多くの言及が見られる。本年度はそれらを網羅的に収集するとともに、そのうち、20箇所(古代イスラエル3例、ローマ1例、ギリシア9例、ガリア3例、カルタゴ1例、トラキア1例、タウロイ1例)を、①殺される人々の特徴、②殺す方法、③その場所、④供儀の直接的目的、⑤供儀にされる者の選別方法、⑥供犠を受ける者という側面から分析した。 ②ヘブライ語聖書での言及として、カルタゴの碑文の用例からの類推で人身供犠の様式とも、カナンの冥界の神名とも考えられてきた「モレク」という語についてこれまでの研究史および関連する考古学的事例などを検討し、「モレク」が指すものについての歴史的・宗教的・文化的背景を検討した。 ③ヘブライ語聖書において、人身供犠が明確に言及される3つの物語(創世記22章、士師記11章、列王記下3章)について、ヘブライ語聖書では人身供犠が忌避され、禁止・断罪されているにも関わらず、物語上人身供犠が効果を有すことを示し、併せて、これら3つの物語が有する力点の違いや、2者もしくは3者に共通する点を明らかにした。 ④人身供犠、動物供儀、殺人の共通点および相違点を考える上で重要だと考えられる「カインとアベル」物語(創世記4章)を検討するとともに、古代イスラエルでの人身供犠の背景と考えられてきたカナン宗教について考察した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究計画では研究計画初年度に海外での人身供犠に関連すると指摘される遺跡および遺物を調査する予定でああった。しかし、コロナ禍の影響で、これらの海外調査ができなかった。そのため、本課題で予定していた考古学的分析が難しくなっている。他方、2021年度は文献学的分析に注力したので、こちらは当初の予定よりも進んでいる。このため、本研究課題はやや遅れていると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題最終年度にあたる2022年度は、引き続き文献での人身供犠に関連すると思われる箇所の分析を行う。また、2021年度に予定していた海外での遺跡および考古学的遺物の調査については、国内外の感染症および出入国管理の状況を踏まえて、可能な限り実施できるように努めたい。これらの成果を踏まえて、本研究課題の最終成果としてまとめる予定である。
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