2023 Fiscal Year Research-status Report
Towards a "Philosophy of Play" in the Kyoto School Tradition: A Comparative Analysis with Modern Western Philosophy of Play
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21K12862
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
石原 悠子 立命館大学, グローバル教養学部, 准教授 (40846995)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | ガダマー / 上田閑照 / 遊戯 / 賓主互換 / 没入 / 自己否定 |
Outline of Annual Research Achievements |
2024年1月にここ数年間の研究成果である書物(Intercultural Phenomenology: Playing with Reality)が出版された。そこでは現象学の鍵概念である「エポケー」(判断停止)概念を援用し、エポケーを通して「実在と遊ぶ」ことを提案した。本年度ではこのエポケー概念に見られるような自己否定的な側面と遊びの関係についてガダマーと上田閑照の「遊戯」概念の比較研究を通して検討した。ガダマーは『真理と方法』において遊戯を「行ったり戻ったりする運動」と定義し、そのような遊戯概念に基づいて他者理解を考えていく。他者を理解するということは、私が相手を理解しようとし、相手が私を理解しようとするその間に繰り広げられる行ったり戻ったりする遊戯的な運動である。このような他者理解においてとりわけ強調されているのは自分自身とは他なるものへの積極的な参与である。だが、遊びに参与し没入するためにはすでに没頭していた事柄(日常の出来事や仕事など)から一時的に距離をとる必要があるように、他者理解に没入するためには自己理解から離れる必要がある。ガダマーは遊びの積極的な側面を強調するあまりこのような「消極的」な側面についてはあまり語っていない。まさにこの点を強調したのが上田閑照の他者理解である。上田は禅仏教における「賓主互換」、すなわち主と賓が相互に入れ替わる運動にこそ真の対話おより他者理解があるとし、それを「人と人とのSpielen」と呼ぶ。そこではガダマー同様、遊びの動的な性格が見られているが、ガダマーが遊びの没入的な側面に注目したのに対し、上田はそのために必要な「自己否定」の側面に注目する。遊び研究一般においてはガダマーが強調したような没入的側面が注目されがちだが、上田の他者理解を通して遊びの「消極的」な自己否定的側面が遊びのもう一つの大事な局面として浮かびあがってくる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は育休あけの年度であったため研究のペースを取り戻すにやや時間がかかったが、途中からは軌道にのることができた。学会発表については子供が小さいために国内外の学会で発表する機会は当初の計画より少なかった。とはいえ他分野の人と交流する機会が増えたことから哲学的な観点からだけではなく、例えば認知科学や人工知能の観点から遊びをどう捉えるのかということを考える機会ができ、それによって遊びをより包括的な観点から考えられるようになってきている。ただし本年度の研究成果についてはまだ論文として発表できていない。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の研究成果を論文のかたちにまとめることが第一の課題である。その後は後期ハイデガーおよびニーチェの遊戯概念を検討し、当初計画していた「自己」「他者」「世界」という三つの問題圏のうち、「世界」の局面について研究をすすめていく。
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Causes of Carryover |
当初計画していた海外への出張が家庭の事情によりできなくなったのと、予定していた書籍が購入できていないため次年度使用額が生じた。次年度も年度途中より産休・育休を取得する予定であるため再び未使用額が生じることが予想されるが、まだ購入できていない書籍などは事前に購入する予定である。
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