2023 Fiscal Year Research-status Report
Elucidation of the architectural project "The Place of Soviets" during Khrushchev era
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21K12887
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Research Institution | Niigata University of International and Information Studies |
Principal Investigator |
鈴木 佑也 新潟国際情報大学, 国際学部, 准教授 (20793087)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | ソヴィエト宮殿 / ソ連建築 / 建築と政治 / 建築競技設計 |
Outline of Annual Research Achievements |
3年目となる令和5年度は、2年目までの総括としてそれまでの成果を発表することに注力した。1年目と2年目において競技設計ソヴィエト宮殿において当時の政府指導者ニキータ・フルシチョフの関与を競技設計と関連した議事録、建築政策における彼自身の発言を収めたアーカイブ資料を中心に調査してきた。この点を、彼が政府指導者以前から政府指導者となるまで時系列にまとめ、競技設計が企画された段階及びフルシチョフが関与した集合住宅建設事業を同じく時系列にまとめた。その際に、権力者(フルシチョフ)がこの競技設計を主導して進められたものという観点から、2023年度のロシア文学会で研究報告を行った。 この報告で特に注力したのは、彼が政府指導者として権力の座を上り詰めるまでに建設及び建築関連の事業やソ連の首都(モスクワ)における建設事業に携わっていたという点である。1930年代半ばより首都モスクワの再編に際して住宅建設におけるコスト削減、規格化設計導入の推奨と指導者となってから積極的に導入する建築政策を提言し、第二次世界大戦中にはウクライナ共産党第一書記として戦時下の都市(キーウ)整備などが認められ1940年代後半には政府指導部首脳に名を連ねるようになる。このことは彼自身の政府指導者としての権力の源泉が建設及び建築事業にあったことを示している。そのため、1930年代に国家建築プロジェクトとして位置付けられたソヴィエト宮殿を自らの主導により競技設計を実施し、建設に至らせることはフルシチョフ自身の権力の正当性を担保するものとなっていた。 こうした点を1930年代半ばから1950年代初めに至るフルシチョフ自身の建設及び建築事業に関する会議や会合での発言、この点に関連した建築メディアでの彼の行動に対する報道のされ方をアーカイブ資料から明らかにしていった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
三年目も昨年度同様本務校の学内業務が多忙を極め、新たに本務校での担当授業が加わり二年目よりも研究時間が少なくなってしまった。だが昨年度の反省を活かし、集中的な研究時間を確保し研究成果報告のための発表準備ができた。昨年度に掲げた目標である「かつてのソヴィエト宮殿とは異なるアプローチで競技設計の調査/分析」は「研究実績の概要」で記したとおり、政府指導者との関連から行った。その結果、かつてのソヴィエト宮殿と異なり政府指導者のイニシアチヴと関連する形で企画されてきたという点が明らかになった。 三年目で着手を計画していた競技設計に提出された設計案の分析だが、資料収集が現地で行えなかったため先行研究などをもとにして、手に入る資料をもとに入賞候補作品や最終勝利案のみの分析を行うことができた。ただし、入賞候補設計案及び最終勝利案が他の提出された設計案と比較した場合に、それらの設計案自体が公で評価された点に加え、入賞候補案と最終勝利設計案の制作者が当時建設/建築事業、都市計画整備事業においてどれほどかかわりを持っていたのか、あるいはそうした事業で政府からどれほど評価されていたのかを調査する必要がある。これはフルシチョフ期のソヴィエト宮殿は企画段階において指導者が権力発揮を示す格好の場ということが明らかとなり、その点が最終案や入賞選定の段階で作用していたかを実証するためである。 昨年度の段階で延長を計画しており、三年目は延長を念頭に入れて研究を進めてきた。そのため無理のない範囲での研究ということになり、当初の計画に比べ対象とする限られた対象で調査を行い、それまでの成果をまとめた報告を行うにとどまった。結果として延長を申請するが、延長期間中に上記した点をまとめることが、予定最終年度の次年度にあたる四年目の目標となり、その成果報告は予定最終年度の次々年度の五年目として、取り組んでいきたい。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の方向性として、これまでの成果をもとに競技設計に提出された設計案と入賞案及び最終勝利案の比較分析、最終勝利案を制作した建築家の同時期における建設/建築事業及び都市計画整備事業への関わりの分析/調査という二点に注力したい。 特に後者に関しては、かつてのソヴィエト宮殿と同じく建設予定地のランドマーク的建築物としての期待が込められていたことから、当時計画されていた建設予定地周辺地区の再編事業と入賞案及び最終勝利案において周辺環境が考慮されていたのかという点の分析を行う。このことによって、昨年度の最終の目標として掲げた「フルシチョフ期のソヴィエト宮殿におけるモニュメンタリティ究明」の手がかりが得られると考える。当時のソ連建築界では建築物そのものより、建築物を含んだ集合体である地区や住民を効率的に収容あるいは生活させるための住宅及び小地区建設が優先的に取り上げられていた。権力の源泉と結びついたプロジェクトであるソヴィエト宮殿と建設予定地周辺の地区再編事業がどのような形で結合したのか、あるいはどちらが優先的な形で扱われソヴィエト宮殿自体にいかなる変容を被ったかという点を明らかにすることこそ、フルシチョフ期のソヴィエト宮殿がかつてのソヴィエト宮殿と比較した際の特質になるであろう。その際に、すでに三年目の段階で明らかになった権力者の源泉としての建築プロジェクトという観点と異なり、建築作品あるいは都市計画/地区計画を分析するという観点から取り組む。 この点と関連する形で、フルシチョフ期のソヴィエト宮殿をまとめたのちにかつてのソヴィエト宮殿を含めた「ソヴィエト宮殿」全体の特質あるいは有していたであろう「モニュメンタリティ」の解明が次なる研究テーマとなる。この点を考慮に入れつつ、フルシチョフ期のソヴィエト宮殿の解明に取り組みたい。
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Causes of Carryover |
2023年度(3年目)において2022年度同様に本務校での学務が多忙を極め、研究費の執行が滞ってしまった。2023年度では成果発表と年度末に可能となった北海道大学への出張、研究書籍購入のみで、国外への渡航可能な時間の確保が難しかった。そのため、今年度(2024年)に繰り越し延長する予定である。また2024年度において国外でのロシア関係の国際学会において研究成果を発表する機会を得ており、この点に加え本務校の派遣留学引率業務によって国外渡航が可能となる時期があり、その期間に旧ソ連(ロシア語圏)のラトビアの国立図書館にて資料収集を予定しているため、予算を繰り越して延長消化したい。
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Research Products
(1 results)