2021 Fiscal Year Research-status Report
「チャタレイ事件」と1950年代の「文壇」概念の形成をめぐる基礎的研究
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21K12921
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Research Institution | University of Yamanashi |
Principal Investigator |
尾形 大 山梨大学, 大学院総合研究部, 准教授 (00774233)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | チャタレイ事件 / 文壇 / 伊藤整 / 川端康成 |
Outline of Annual Research Achievements |
①伊藤整『裁判』の初出と初刊に関する校異表の作成作業をおこなった。これを通じて、チャタレイ事件当時の伊藤整側の「ナラティブ」の作られ方を検証することを目指した。当該年度は校異表作成を全体の40%程度まで進めた。ただ、当初の予想よりも異同箇所が多く、次年度も継続して作業を進めていく必要がある。同時に日本近代文学館に寄贈された特別資料「公判速記録」の閲覧が新たに可能となったため、同資料と照らし合わせることで「記録」から「文学」への書き換えという問題を検討することにつなげていく。 ②チャタレイ事件に関する同時代言説の蒐集は1950年、51年分を中心におこなった。そのなかで同事件に関する川端康成と伊藤整の発言を整理・分析した。その成果として、単著『「文壇」は作られる―川端康成と伊藤整からたどる日本近現代文学史』(文学通信2022・3)の第11章「文壇の団結と再出発―チャタレイ事件と『舞姫』を発表した。 ③1950年代の「文壇」概念の形成をめぐる研究も進めた。その概論として、前述の著書『「文壇」は作られる』の第12章「日本近代文学館設立からノーベル文学賞受賞へ」を執筆・発表し、伊藤整の『日本文壇史』および近代文学史の作成、さらには日本近代文学館設立運動の中心人物のひとりとして果たした具体的な役割、成果を整理した。なお、この観点に関しては、「私から考える文学史の会」(科研費(基盤C)「〈私〉性の調査と〈自己語り〉ジャンルとの比較による日本「私小説」の総合的研究」)のオンライン研究会で2月27日に「戦後の伊藤整文学における私小説性の変遷」と題して発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
①伊藤整『裁判』に関する研究は、異同箇所が予想よりも多かったためにやや遅れている。また、日本近代文学館所蔵の「公判速記録」の閲覧が可能となったこともあり、比較対象が増加したことで、『裁判』関連研究は次年度以降、当初の予定よりボリュームを増して実現されていくものと見込まれる。 ②チャタレイ事件に関する同時代言説の蒐集とデータベース化の作業についてもやや遅れが見られる。これは、新型コロナウイルス感染症拡大のために、同時代言説の基礎調査のための国立国会図書館等への調査が行いにくい社会状況のためである。 ③一方で、チャタレイ事件および1950年代の文壇概念の形成に関する基礎的な研究をそれぞれ単著のなかで発表することができた点は、2022年度、2023年度の研究を先取りし、研究の環境を準備することにつながったということができる。
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Strategy for Future Research Activity |
『裁判』に関して2段階に分けて研究を計画する。第一段階として『裁判』の校異表の作成を完了させる。そのうえで第二段階として、同表と新資料「裁判速記録」の比較分析をおこない、記録と文学の書き換えの問題を明らかにする。第一、第二段階それぞれを資料および論文として学術雑誌に発表することを目指す。また、新型コロナウイルス感染症の感染状況を注視しながら、国会図書館や日本近代文学館での同時代言説の確認をおこない、資料の蒐集を進めていく。 一方で、伊藤整のご子息・伊藤礼氏やチャタレイ事件の主任弁護人の正木ひろし氏のご家族・正木美樹子氏に取材し調査範囲を広げていきたいと計画していたものの、どちらもご高齢であることから、新型コロナウイルス感染症感染防止の観点から直接お目にかかることは難しい状況にある。この点は今後の社会状況を見ながら判断し、必要に応じて研究計画を変更する必要があるかもしれない。次年度以降の課題としたい。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染症の影響を受けて、旅費と人件費の使用が当初の予定を下回った。次年度以降の社会状況の推移を見きわめながら、遠隔コピーや資料類の購入なども利用できるように基礎調査を進めて柔軟に対応できるように準備を整えて研究を進めていく。
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Research Products
(2 results)