2021 Fiscal Year Research-status Report
荒地派の未発表作品収集及びその歴史的意義の解明に関する研究
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21K12923
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
山下 洪文 日本大学, 芸術学部, 助教 (50886372)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 荒地派 / 飯島宗享 / 鈴木喜緑 / 未発表資料 / 単行本未収録資料 / 草稿 / 実存主義 / 戦後詩 |
Outline of Annual Research Achievements |
荒地派の詩と思想を解明するため、日藝の卒業生・学生を集めて「実存文学研究会」を結成した。以下に、その活動実績の一端を述べる。 ・飯島宗享(東洋大学教授等を歴任した哲学者)の未発表小説を、手書き原稿から翻刻。 ・飯島の遺族への原稿依頼、並びにアルバム写真の入手。 ・吉本隆明と並び称されながら歴史から消えた詩人・鈴木喜緑を調査し、数々の新事実を発見。 ・喜緑の詩集及び単行本未収録詩篇を収集・翻刻。また、肖像写真等の資料を入手。 ・荒地派と、荒地派の根源的思想=実存主義の研究論文の執筆。感性的側面から戦後詩を解読するため、創作にも取り組む。 以上をまとめたものが、『実存文学』(山下洪文監修、未知谷、2022年2月)である。数々の貴重な資料の他、日藝の卒業生・学生計15名の論文・作品、藤田一美先生(東京大学名誉教授)の論文、飯島宗享の長男の回想録等を盛り込んだ結果、776頁もの大著となった。 『江古田文学』連載の「荒地への旅」三・四・五回は、未発表原稿を初めとする歴史的資料を掲載するとともに、詩人の生涯と作品を解説し、人々に広く伝える役割を果たした。「祝祭と奈落」は大岡信を分析することで、「近代思想論序説(日本篇)」は戦後思想の流れを辿ることで、「「神」の裂け目」は表現主義における「神の死」を探ることで、荒地派の本質を照らし出そうとしたものである。荒地派の総体を把握するには、彼らの方法を学び、彼らの言葉を用いて「現代」を描くことが必要である。そのため自身でも詩を執筆し、公表した。「おいで、嵐よ」「あやめ」「神の歌」等がそれである。 以上のように、本研究は順調に進行し、今や日本文学史に確固たる足跡を残しつつある。 ※ここに掲載しきれなかった論文一覧や、論文の副題・掲載誌については「10.研究発表(令和3年度の研究成果)」やresearchmapをご参照ください。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究は、当初の予定を大幅に上回るペースで進展している。 日本大学芸術学部文芸学科の卒業生・学生とともに結成した「実存文学研究会」が、原稿の翻刻・校正、また論考の執筆に力を発揮してくれたのが、主たる理由である。「教育しつつ研究をともにする」予定だったが、ほとんど即戦力となるメンバーのおかげで、スムーズに計画が進行することとなった。 学術叢書『実存文学』を創刊するにあたり、飯島徹氏(未知谷社長)・藤田一美氏(東京大学名誉教授)の適切なアドバイスを受けられたことも、大きな助けとなった。飯島宗享のご遺族や、鈴木喜緑の近隣の方々から協力を得られたことも、研究が順調に進展した理由の一つである。飯島のご遺族からは、未発表原稿約三百枚や、宗享がまとめたスクラップブック二冊をご提供いただいた。いずれも極めて保存状態がよく、判読不能な文字も少なかったため、翻刻に適していた。生前の宗享の面影を、ご遺族から直接聞けたことも、大きな助けとなった。喜緑については、近隣の方々から、彼の晩年の暮らしを教えていただいた。そして、喜緑が生きた場所を、学生とともに訪ね歩いた。研究対象と近しかった人々のご厚意に預かったことも、本研究をハイペースで進められた一因である。 戦後文学の基礎資料(荒地派の詩人の詩集・草稿、実存主義文学・哲学者の書籍・論考・草稿等)を、今までの研究によってすでに揃えていたことや、Googleドライブ・Zoom等のオンラインツールを活用できたことも、研究計画の円滑な進行に役立った。これによって、資料共有や定期会議を迅速におこなうことができた。『実存文学』刊行・公式サイトの公開等、一つの目標に向かって具体的・計画的に動いたことも、本研究を迅速に進める一因となった。 以上の理由によって、本研究計画は、当初の計画以上に進展することとなった。
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Strategy for Future Research Activity |
令和3年度の研究では、哲学者・飯島宗享と詩人・鈴木喜緑の未発表原稿や単行本未収録作を発見し、これを翻刻し、研究した。今後は他の詩人や哲学者にも目を向け、研究の幅を広げてゆく予定である。 荒地派の未発表作品収集を軸に置きつつ、荒地派を形作った実存主義哲学・文学、また「荒地」以降の詩の流れも視野に入れ、研究を進める。荒地派の歴史的意義を解明するには、「荒地」以前・「荒地」以後の文学史を明るみに出すことが、必要不可欠だからである。 具体的には、荒地派の初期メンバー・中桐雅夫や、荒地派に決定的影響を受けながら、高度経済成長以後の「忘却と豊穣の時代」(藤田一美)を生きた菅谷規矩雄等の研究を進めたいと考えている。 全集未収録作や、草稿の一部をすでに発見しており、これの翻刻・研究に取りかかる予定である。『荒地』の源流の一つである詩誌『LUNA』の創設者でありながら、戦後は鮎川信夫・田村隆一と比べると目立たない存在となった中桐雅夫を考究することで、「荒地」の隠された一面が見えてくる。また、荒地派(特に吉本隆明)の詩的・思想的成果を受け継ぎ、『詩的リズム』を初めとする日本語論や、『散文的な予感』等の詩集に現代の実存を刻んだ菅谷規矩雄の、可能性と限界を探求することで、荒地派の歴史的意義の解明に近づくことができる。また、飯島宗享のスクラップ・ブック二冊をご遺族にご提供いただいたため、これの翻刻・研究にも取り組む予定である。 以上のように、今後の研究においては、荒地派及びそれに連なる詩人・哲学者の未発表・単行本未収録作をさらに収集し、彼らの全体像を明らかにする論考・創作を学生とともに執筆する。そして、それらを世に伝える手段として、公式サイトを解説するとともに、学術叢書『実存文学』第二号を刊行する。 以上が、今後の研究の推進方策である。
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Causes of Carryover |
未発表資料の一部(写真等の画像データ)をサイトで公開することにしたため、印刷製本費に余裕が生じた。 今回余った3,330円については、令和4年度の計画にて消費する予定である。 具体的には、詩人・哲学者の未発表資料・単行本未収録作等の掲載数を増やす予定である。
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Remarks |
本研究に関連して、日本大学芸術学部文芸学科の卒業生・学生を集めて結成した「実存文学研究会」の公式サイトである。 中田凱也(令和二年度日本大学芸術学部文芸学科卒業生。現在、日本大学豊山高等学校・中学校講師。実存文学研究会会員)の協力により制作された。 2022年5月中に公開予定である。
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Research Products
(19 results)
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[Journal Article] 鈴木喜緑全詩2022
Author(s)
山下洪文, 鈴木喜緑, 中田凱也, 舟橋令偉, 桑島花佳, 内藤翼, 正村真一朗, 加藤佑奈, 島畑まこと, 田口愛理
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Journal Title
実存文学
Volume: 1
Pages: 602-722
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[Journal Article] 飯島宗享「ガラスの家」2022
Author(s)
山下洪文, 飯島宗享, 飯島徹, 中田凱也, 舟橋令偉, 桑島花佳, 内藤翼, 正村真一朗, 加藤佑奈, 島畑まこと, 田口愛理
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Journal Title
実存文学
Volume: 1
Pages: 58-235
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[Book] 実存文学2022
Author(s)
山下洪文
Total Pages
776
Publisher
未知谷
ISBN
9784896426564
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