2023 Fiscal Year Research-status Report
後期読本ジャンルの確立と草双紙との関連についての研究-敵討物を中心に-
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21K12926
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
伊與田 麻里江 日本大学, 商学部, 助教 (40884549)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 草双紙 / 敵討物 / 読本 / 南杣笑楚満人 / 山東京伝 / 曲亭馬琴 |
Outline of Annual Research Achievements |
2023年度は、寛政期(1789~1801)の敵討物草双紙のなかで、読本『復讐奇談安積沼』に影響を与えた南杣笑楚満人『敵討沖津白浪』の創作法について分析した。作品論ではあるが、近接領域である演劇(歌舞伎・浄瑠璃)との連動に注目することで、この時期の草双紙ジャンルの位置を確認し、読本に影響を与えた背景を明らかにしようとするものである。結果、『敵討沖津白浪』は同時期の演劇の傾向(具体的にはグロテスクな趣向や悪婆という女性キャラクターの創出)と軌を一にしており、また、文化期(1803~1818)の草双紙、演劇、読本の作風を先取りしたような作品になっていることが明らかになった。すなわち、本作品の先駆性が、読本に影響した一因と考えられる。このことは、当該作品の特殊性、および、作者楚満人の評価を検討する上で重要であると考える。 一方、同時期(寛政期)の曲亭馬琴の草双紙作品についても、考察の準備を進めている。特に、実録(実録体小説)に取材した作品『銘正夢楊柳一腰』『登阪宝山道』(寛政5)、『彦山権現誓助剱』(寛政9)、『時代世話足利染』『足利染拾遺雛形』(寛政10)は、これまで演劇の抄録(ダイジェスト)とされてきたが、実録の利用が顕著な作品である。馬琴は読本『高尾船字文』(寛政8)においても実録を利用しており、実録種草双紙と『高尾船字文』との関係性を調査すれば、両ジャンルの距離を測るサンプルになり得ると考える。この結果については、2024年度に発表する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
2023年度は所属先が変わったことによって校務を優先せざるを得なかったこともあり、研究遂行に必要な、各所蔵機関を訪問しての資料閲覧の時間をとることが難しかった。また、本研究の主要作業である、敵討物の読本と草双紙との比較を行う際、前提となる敵討物草双紙の翻刻・分析・考察等が、先行研究においてなされていないため、草双紙の分析から始めざるを得ず、想定以上に時間がかかっていることも、研究遂行が遅れている要因である。この点については、当初から懸念事項ではあり、本研究採用前から分析を進めていたが、現時点では想像以上に時間を要している。対象となる草双紙については、以前資料収集したもの、電子データで公開されているものも多かったが、草双紙を分析する際に演劇その他、周辺領域の作品と比較する必要があり、そのためにも所蔵機関に赴いての資料収集が必要だった。そのことも、研究が計画通りに進まない要因であったと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
【現在までの進捗状況】で述べた如く、現在の研究状況は遅れており、できる限り効率的に研究を進め、一定の結論を出す必要がある。そのため、まず、当初は、網羅的に取り上げる予定であった草双紙を、主に、①南杣笑楚満人、②山東京伝、③曲亭馬琴、④感和亭鬼武の作品に絞り、①から優先して読本との比較を進めることにする。この四者を選択した理由は、同時期に読本、草双紙を創作しているため、両ジャンルに対する作者の創作意識も含めて検討しやすいためである。また、作品数も多く、当時の出版界(特に、敵討物の流行)をリードする存在だったと考えられることも選択の理由である。研究遂行に必要な資料収集についても、ターゲットを絞り、効率的に行う必要があるため、今回は、東北大学図書館狩野文庫、天理図書館、京都大学図書館での資料収集を優先する。
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Causes of Carryover |
研究活動、特に、遠方所蔵機関への出張が思うようにできなかったのが、次年度使用額が生じた要因である。2024年度は、遠方所蔵機関(東北大学図書館、天理図書館、京都大学図書館)への旅費(調査費)、資料複写費として利用する予定である。
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