2021 Fiscal Year Research-status Report
江戸の女流文学者、荒木田麗女の歴史物語・紀行文・随筆の研究
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21K12933
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Research Institution | Kyoto Sangyo University |
Principal Investigator |
雲岡 梓 京都産業大学, 文化学部, 准教授 (30732888)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2028-03-31
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Keywords | 笠舎 / 歴史物語 / こころの種 / 万葉集 / 和学 / 連歌 / 擬古物語 |
Outline of Annual Research Achievements |
荒木田麗女の未翻刻の長編歴史物語『笠舎』について、その記述内容や執筆に際して麗女が参照した資料を明らかにするため、本文の翻刻と典拠の考察を進めた。今年度は昨年度までに引き続き、巻11を翻刻・研究した。その結果、聖武天皇の事蹟について記述する『笠舎』巻11は、主として『続日本紀』の記事を和文に改めながら、そこに『水鏡』・『神皇正統記』・『扶桑略記』・『今昔物語集』に記される聖武天皇に関する記事を書き加えることで執筆されていることが判明した。また、『続日本紀』に記される出来事に関連する和歌を『万葉集』・『拾遺和歌集』から抜粋して書き加えた箇所もある。以上のことを、論文「荒木田麗女『笠舎』巻十一の翻刻と典拠の考察」(『日本文藝研究』第73巻第1号、2021年10月)としてまとめ、発表した。 さらに麗女が作成した『万葉集』語彙辞典『こころの種』について調査し、麗女が北村季吟の『万葉拾穂抄』に基づいて『万葉集』の研究を行い、『万葉集』に出て来る独特の語彙をいろは順に分類してその意味と例歌を引用し、『こころの種』を作成したことを明らかにした。また、麗女が連歌・擬古物語執筆等の実作の際に参照する目的で『こころの種』を作成したことを指摘した。この麗女の営為は、近世中後期の和学者たちが『万葉集』の訓詁・注釈を通して古代の精神を解明しようとしたのとは異なり、中世の連歌師による『万葉集』研究に近い。以上のことを、論文「荒木田麗女の万葉語辞典『こころの種』について ―『万葉拾穂抄』との関係―」(『鈴屋学会報』38号、2021年12月)にまとめて発表した。 また、麗女の代表作『池の藻屑』『月のゆくへ』について、最善本である家雅清書本・直女清書本を底本に、詳細な頭注と現代語訳を付した注釈書を作成するため、本文校訂・注釈・現代語訳を進めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
新型コロナウイルスの感染が拡大している状況下にあって、予定していた神宮文庫(三重県)・久留米市民図書館(福岡県)・丸亀市立中央図書館(香川県)等での資料調査・収集が行えなかったものの、入手済の資料『笠舎』や『こころの種』を用いて荒木田麗女の歴史物語と和学に関する翻刻・研究を進めることができた。研究成果を2本の論文、「荒木田麗女『笠舎』巻十一の翻刻と典拠の考察」(『日本文藝研究』第73巻第1号、2021年10月)・「荒木田麗女の万葉語辞典『こころの種』について ―『万葉拾穂抄』との関係―」(『鈴屋学会報』38号、2021年12月)にまとめることができた。 また、『池の藻屑』『月のゆくへ』の注釈書作成を目的として、本文校訂・注釈・現代語訳を進めることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
『池の藻屑』『月のゆくへ』の注釈書完成を目指し、本年度はまず漢学者江村北海と三善彦明が『池の藻屑』に付した序文・跋文の注釈作業を行う計画である。そして序文・跋文から同作の同時代評価を明らかにしたい。 また、未翻刻の長編歴史物語『笠舎』について、昨年度に引き続き翻刻と典拠の考察を進める。2021年度までに現存する33巻中11巻までの翻刻と麗女が執筆にあたって用いた典拠の特定を行い、その成果を論文上で発表し終えているため、2022年度には12巻の翻刻と典拠の特定を終え、その成果を論文上で公開することを目標とする。
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Causes of Carryover |
神宮文庫(三重)・三重県立図書館(三重)・国文学研究資料館(東京)・名古屋大学附属図書館(愛知)にて荒木田麗女の歴史物語『月のゆくへ』・『池の藻屑』・『笠舎』の諸本の調査・収集を行い、久留米市民図書館(福岡県)・丸亀市立中央図書館(香川県)・丸亀市立飯山図書館(香川県)にて、関連する近世女性文学者の所在不明図書の捜索と資料収集を行う計画であったが、昨年度は新型コロナウイルス感染拡大防止のため、緊急事態宣言・まん延防止等重点措置がたびたび実施され、上記のような遠方の施設での調査は自粛せざるを得なかった。そのため交通費・宿泊費等の旅費に大幅に余りが生じてしまった。 この残額については、国文学研究資料館・国立国会図書館等の機関からマイクロフィルム資料の紙焼を取り寄せるなどの資料収集のために使用する計画である。
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Research Products
(2 results)