2021 Fiscal Year Research-status Report
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21K12946
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
永川 とも子 九州大学, 言語文化研究院, 助教 (90805706)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 原爆の語り / ヒロシマ・ナガサキ / アラキヤスサダ事件 / 加害と被害 / 当事者性と非当事者性 |
Outline of Annual Research Achievements |
「ヒロシマ・ナガサキ」という出来事には、「原爆文学」という1970年代頃の日本において体系化されたとされる文学ジャンルが存在し、これまでに数々の優れた小説・エッセイ・詩・記録等、領域を横断した作品が生み出されてきた。こうした物語の中には、著者自身の体験や被爆の記憶をベースに紡がれたものが数多く散見され、日本の文脈においては第一級資料として参照されてきた歴史がある。しかし近年では、「物語る」行為を巡り、当事者/非当事者という2項対立そのものに問題提起をすることで、原爆の語りの新たな可能性を模索するという文学上の動きも散見される。 こうした動きを踏まえ、当該年度においては出来事の当事者でない者/出来事を経験していない者によって書かれた「ヒロシマ・ナガサキ」の物語が持つ語りの可能性についての分析・検証を行った。とりわけ焦点を当てた分析対象として、1995年から現在に至るまでアメリカの文学界で論争を巻き起こしている「アラキヤスサダ事件」を取り上げ、公開講座・研究会での発表を行い、さらに推敲を重ね、研究記事を発表した。架空の原爆詩人、アラキヤスサダについての論考はこれまでにも「作者とは誰なのか」といった著者性を巡る問題などから国際的に論じられてきたが、本研究ではこうした先行研究を踏まえ、日本の原爆文学の流れと日本における原爆の語りの伝統的な在り方とを相互参照することで、出来事を語るという行為自体の問題点と限界について考察することができたという点で意義のあるものであった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画書に基づいて研究を遂行できたことに加え、当該年度では研究会等のディスカッションを通し、大学内外での領域横断的な意見を取り入れることができた。「出来事を語る」ことを巡る、より普遍的な問題にも研究対象が広がり、次年度の研究への布石となったという点で概ね順調に進展していると思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は出来事を当事者でない者が「語りなおす」という実験的試みを行った2000年代以降の文学テクスト及び核批評を検証する。そうした昨今の文学上の試みが、被爆体験を単に継承するという点に留まらず、核や原爆を巡って今後どのようなトランスナショナルな語りの可能性を持っているのかという点を明らかにする。
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Causes of Carryover |
当初予定していた資料等の実地調査が、社会情勢のために使用できなかったため。次年度の使用計画としては、論文校閲費用及び、実地調査が遂行できる場合はその分に計上する予定である。
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