2021 Fiscal Year Research-status Report
アメリカ文学ロマン派からリアリズムにおけるサイボーグ表象と宗教
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21K12947
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Research Institution | Kyushu Institute of Technology |
Principal Investigator |
鈴木 一生 九州工業大学, 教養教育院, 講師 (70883544)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | アメリカ文学 / 英米文学 / アメリカン・ルネサンス / ハーマン・メルヴィル / ナサニエル・ホーソーン / 機械表象 / 反知性主義 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は主に以下 (1), (2) の内容について研究調査を行った。 (1) ハーマン・メルヴィル作品における機械表象の分析 メルヴィルが複数の作品に渡って描き続けた人工的身体のモチーフを念頭に置きつつ、文献の精読を進めた。メルヴィルが頭脳と身体の対比的構図をとりわけ意識していたことは、残された書簡の内容からも明らかであるが、機械表象の場においては、それらの対比がより前景化される。さらに、各物語の結末では、頭脳の敗北や登場人物による頭脳(あるいはそれに似せたもの)の破壊が繰り返し描かれる。言いかえれば、メルヴィルが機械表象を通して体現するのは、頭脳ではなく身体の側に立つ、いわば反知性主義的態度である。このことが、本研究をアメリカにおける反知性主義と文学の関係性についての調査ならびに考察へ向かわせるきっかけとなった。メルヴィル作品にみられる反知性主義的傾向は、これまでにも度々指摘されてきたが、本研究は、機械表象の精査がメルヴィルに特有な反知性主義の在り方を定義するために重要な手掛かりであることを明らかにした。 (2) 19世紀アメリカ文学と反知性主義の関連性についての文献調査 (1) の研究成果を踏まえ、文学作品の精読のみに留まらず、反知性主義に関するアメリカ史・思想分野の基本文献を調査し、特に反知性主義と宗教の関係についての考察を行った。知性の敗北や破壊は、メルヴィル作品に限らず同時代作家ホーソーンらの作品にも表れる特徴であるが、これらを単なる知性主義への嫌悪や大衆主義への迎合として評価するのではなく、従来の知性の在り方をいったん破壊してみせ、精神と身体の新たな結合様式を、自らの宗教的基盤に立って模索する作家たちの葛藤として読み取ることで、アメリカン・ルネサンス文学の反知性主義的傾向と文学的創造力の結びつきについて、従来とは別の視点から解釈を導ける可能性を見出すことができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
新型コロナウィルスの影響で海外渡航が必要な資料調査は行えなかったが、国内で手に入る文献を読み込むことで、特に反知性主義に関する研究と本研究が設定した当初の研究課題が結びつき、今後の調査を推進させる一定の成果は得ることができた。しかし、必要な文献の入手が遅れたこともあり、論文執筆を十分に行うことができなかったため、「やや遅れている」と自己評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は、メルヴィル作品を中心に分析を進めたが、関連する他作家による作品の精読を十分に行えなかったため、今後はメルヴィル作品についての文献調査で得られた成果を手がかりに、作家間を横断する研究を進めていきたい。特に、メルヴィルの同時代作家ホーソーンの作品については、本年度に精読を進め、読解の方針をある程度は見出すことができたため、次年度に学会発表や論文投稿による研究成果のアウトプットへ漕ぎつけたい。
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Causes of Carryover |
コロナ禍の影響により海外渡航に必要な旅費の支出がなかったことに加え、洋書購入や海外からの文献複写依頼に時間が掛かることを踏まえ、当該年度中の購入を見送った物品があったため。次年度使用額として引き継いだ予算は、当面国内で入手できる文献の購入に充てる予定である。
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